第136章

木下春実は「身ひとつで出ていく」と聞いた瞬間、頭の中で何かが弾けた。

床から勢いよく跳ね起き、ローテーブルの上の離婚書類をひったくる。財産放棄の条項を見つけた途端、目を剥いた。

「……あんた、正気!?」

甲高い声がリビングに響き渡る。木下春実は篠原霧音の鼻先を指さし、唾を飛ばす勢いで罵った。

「笠原灯がいくら持ってると思ってんの! 十年も一緒に寝て、離婚しても一銭も取らないで、しかも身ひとつで出ていく? 何がしたいのよ! うちを全員、死なせたいわけ!? それで満足なの!?」

篠原霧音は半歩下がり、顔に刺さりそうな指先を避けた。

目の前で怒り狂う母を見つめ、口元に、ごく薄い冷笑を浮...

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