第145章

篠原霧音が玄関のドアを押し開け、靴を脱ごうとした、その瞬間。

リビングの空気が、明らかにおかしいと肌が告げた。

照明はついたまま。

木下春実がソファのど真ん中に座り、茶色いクラフト封筒を握り潰すみたいに掴んでいる。視線は封筒の中身に釘づけで、顔色はどんよりと沈んでいた。

霧音の目が、その封筒に吸い寄せられる。胸の奥が、ずしりと落ちた。

見覚えがある。数日前、会社から「ビザが下りた。パスポートと一緒に自宅へ送る」と言われたやつだ。

奈々の休学手続きで頭がいっぱいで、木下春実と篠原雄がまだこの家に居座っていることを、すっかり失念していた。

――今日届いて、開けられた。そういうことだ...

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