第148章

「おばさん、さっき聞かれた件なんですけど……篠原霧音が出張するかどうか、ですよね」

曽我美蘭は語尾をわざと引き伸ばし、手にしたパスポートをつまんだまま、親指の腹で表紙をすうっと撫でた。

顔を上げる。木下春実の肩越しに視線を飛ばし、ドアの外に立つ篠原霧音を見た。

篠原霧音の足は、その場に縫い付けられたみたいに動かない。

――終わった。

曽我美蘭は普段から社内で、ことあるごとに自分へ突っかかってくる女だ。陰湿な手だって、いくらでも使ってきた。

そんな女が、こんな大きな弱みを掴んだ。自分が海外に出て、2年の駐在になると知ったら――この機会を逃すはずがない。

曽我美蘭が木下春実の目の前...

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