第52章

篠原霧音は、少し申し訳なさそうに古川司真を見て、首を横に振った。

「すみません、先輩。今夜はちょっと難しそうです」

そう言いながら視線を落とし、手元を片づけつつ彼を見る。

「今日、今野社長が帰国されたでしょう? さっき連絡があって、もう下まで来てるそうなんです。安哉を迎えに来たみたいで。あの子、うちで半月ほど預かっていましたし、私も帰って荷物をまとめるのを手伝わないと」

古川司真は口元の笑みを崩さなかった。相変わらず、柔らかな物腰のまま。

鼻梁の金縁眼鏡をそっと押し上げ、その奥にかすめた失望を隠して、あくまで軽い調子で言う。

「それもそうだね。今野社長があれだけ長く君に息子さんを...

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