第69章

エレベーターが下っていく、あのふわりとした無重力感。けれど篠原霧音の体は、不思議なほど軽かった。

胸にのしかかっていた十年分の大きな石が、たった今、自分の手でどかせた気がしたのだ。

霧音は顔を上げ、エレベーターの扉に映る自分を見た。

さっきまで取り乱していた名残の無残さもない。笠原灯と離婚することになった女のやつれもない。

丁寧に整えたメイクは崩れておらず、目の下にうっすら隈が差している以外、驚くほど静かで穏やかな顔をしていた。

「ママ」

奈々が彼女の手のひらに頭をすり寄せ、顔を上げる。笠原灯によく似た大きな瞳には、不安がいっぱいに滲んでいた。

「ママとパパ、これからはもう一緒...

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