第71章

笠原灯の胸に、果てしない酸っぱさがじわりと広がった。

篠原霧音のあの言葉が、何度も何度も頭の中で反響する。

「違う。私、あなたと離婚するの。あなたは私の旦那じゃない」

どうして――酔っているときでさえ、その言葉だけは忘れないんだ。

頬を赤く染め、酒の匂いをまとった女を見下ろしながら、灯の心に残ったのは、どうしようもない苦さと無力感だけだった。

笠原灯は、暴れる彼女の手首を押さえ込む。

「俺が旦那じゃない?」

低く沈んだ声が胸の奥で震えた。

「篠原霧音。よく見ろ。今、お前の目の前にいるのは誰だ」

篠原霧音は眉を寄せた。頭がぐらぐらして、胃の奥が波打つみたいにむかむかする。吐き...

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