第72章

「霧音……」

彼は彼女の名を呼んだ。掠れきった声で。

「俺が悪かった。今まで俺がクソだった。お前のこと、ずっと後回しにして……だから、そんなふうにしないでくれ。『もう愛してない』なんて言わないでくれ」

笠原灯は篠原霧音の首筋に顔を埋めた。熱い息が肌をくすぐる。そこには、恐る恐る触れるみたいな慎重さが混じっていた。

「離婚なんてしたくない。しないでくれ、頼む」

腕に力がこもる。骨の奥まで抱き込もうとするみたいに。

「もう一回だけ、チャンスをくれないか。たった一回でいい。変わる。これからは早く帰る。お前と奈々と一緒にいる。清水月とも距離を置く。霧音、離婚しないでくれ」

笠原灯が頭を...

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