第78章

食洗機が、ぶうん……と小さく唸っている。

篠原霧音はキッチンの出入口に立ち、視線を笠原灯へ縫いつけた。

灯は手についた水気を、やけに丁寧に拭っている。その所作が妙に優雅で、かえって癪に障る。

「皿、洗い終わった」霧音は掌を広げ、氷みたいに冷たい声で言った。「スマホ」

灯は俯いたまま彼女を見て、口元に薄い笑みを浮かべる。

珍しく自分から目の前まで来た。――もっとも、追い込んだのは自分だし、霧音の眉間には相変わらず皺が寄っている。

それでも、来た。そこだけは事実だった。

灯はポケットから黒い長方形を取り出し、わざとらしくゆっくり霧音の掌に置いた。

霧音はひったくるようにスマホを掴...

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