第83章

病院最上階の特別個室。

空気には、消毒液の薄い匂いが漂っていた。

笠原灯は、さっき買ったばかりの果物かごをサイドテーブルに置き、病室の中をぐるりと見回す。

――誰もいない。

点滴につながれてベッドに横たわる祖母以外、奈々の姿もなかった。

「灯が来たのね」

祖母はここ数日より幾分か顔色が良く、笠原灯を見るとにこりと笑った。

「ほら、座りなさい」

笠原灯は椅子を引いて腰を下ろし、手近なリンゴを手際よく剥きはじめる。

「おばあちゃん、奈々は? ここに連れてきたはずだけど。篠原霧音が迎えに来たの?」

祖母はふう、と息をついて手を振った。

「霧音ちゃんね、昨日ばたばた来たのよ。会...

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