第84章

篠原霧音は拳をぎゅっと握りしめ、画面に表示された振込通知をしばらく睨みつけた。

それからスマホを掴み、指先で強く、二度タップして折り返す。

呼び出し音は一回鳴っただけで、すぐに繋がった。

「霧音」

受話口から聞こえたのは笠原灯の声。低くて、穏やかで――どこか懐かしい甘さまで混じっている。まるで、二人の間に喧嘩も亀裂も一度もなかったみたいに。

そのせいで、霧音の胃の奥に渦巻く吐き気は、いっそう濃くなった。

「笠原灯、どういうつもり?」

歯を食いしばり、氷みたいに冷えた声で言う。

「人をつけて、私の一挙一動を見張って。食事代まであんたが払うようにして……何がしたいの?」

「見張...

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