第88章

彼女は奥歯を噛みしめ、力いっぱい手を引き抜いた。

彼の手が宙で固まり、やがてゆっくりと引っ込む。

「逃げられるのが怖いんだ」

笠原灯は声を少し落とし、言葉の端にかすかな譲歩を滲ませた。

「今夜だけ、おとなしく泊まって。朝になったら俺は帰る。絶対にしつこくしない。君は子どもとこのまま遊んでいい。でも古城のあたりは危険が多い。だから俺に、何人かつけて守らせてくれないか……頼む」

篠原霧音が鼻で笑う。

「いらない。笠原社長、言ったこと守れるの?」

「もちろんだ」

篠原霧音は腕の中の奈々に目を落とした。

眠っているはずの小さな眉がきゅっと寄り、寝息もどこか落ち着かない。

今日は一...

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