第32章

二谷夜子は拗ねたように唇を尖らせながらも、結局おとなしく彼のあとを追った。

「どこ行くの?」

この一帯の邸宅街は、地下鉄もバス停もやたらと遠い。もし藤原右京がついでに病院まで送ってくれると言うなら――それは、ちょっと優しすぎるくらいだ。

その程度の腹の内など、藤原右京には丸見えだった。

「送ってやる」

淡々と落とされたひと言に、二谷夜子の口元がぱっとほどける。甘い笑みが浮かんだ。

――なんだ。案外、そこまで嫌な男じゃないのかも。

けれど藤原右京は、彼女のその嬉しそうな顔が気に入らない。つい意地悪く付け足す。

「地下鉄の駅までな」

二谷夜子の笑みが、ぴたりと固まった。……とは...

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