第69章

二谷夜子は下唇をきゅっと噛みしめ、自分の衝動を悔いていた。

『ご……ごめんなさい。私、ただ返しに――あっ!』

藤原右京が乱暴に彼女を押しやり、ドア脇の壁へ叩きつける。華奢な身体がまっすぐ壁にぶつかり、夜子は痛みに息をのんだ。

痛いし腹も立つ。夜子は顔を上げ、藤原右京を睨みつける。

――ひどい顔。

沈みきった表情。こちらを喰い殺すみたいな目。

夜子は反射的に壁際へ身を縮めた。けれど右京は一歩、また一歩と詰めてくる。高い身体が完全に夜子を覆い、ふわりと酒の匂いまで混じった。

恐怖が胸いっぱいに広がる。

『な……何する気?』

圧が強すぎる。夜子は隅に丸まり、ついには目すら開けてい...

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