第75章

二谷夜子は、藤原右京の値踏みするような視線を必死に無視し、堂々と藤原奥様の病床へ歩み寄った。

枕元のカードにある患者情報へちらりと目をやり、にこやかに口を開く。

『松谷雅美さん、こんにちは。二谷夜子と申します』

藤原奥様は二谷の左手を取って握り、顔いっぱいに笑みを広げた。

『二谷夜子……いい名前ねえ。聞いただけで福がありそう』

来た。二谷夜子の胸の中で警報が鳴り響く。

年上のこの手の熱量――嫌というほど知っている。

まず褒める。次に、男を紹介する。

案の定、藤原奥様は待ちきれない様子で身を乗り出した。

『彼氏はいるの?』

言いながら、二谷の手を撫でるふりをして薬指をさりげ...

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