第76章

病室のドアがカチリと閉まる音がした。

藤原奥様はぱっと目を輝かせ、藤原政城を振り返る。

『藤原、見た? 今回はいける気がするわ』

氷山みたいに冷たいはずの息子が、女の子のあとを自分から追いかけたのだ。

――二谷夜子という子は、あの子の中でやっぱり少し特別なのかもしれない。

だが藤原政城は、息子の色恋沙汰に乗る気は薄い。むしろ、もうひとりの「無視できない存在」を思い出して眉を寄せた。

『忘れるな。あいつは白原ルルとまだ付き合ってる。命の恩人を不倫相手にしたいのか?』

藤原奥様はふん、と鼻を鳴らす。

『白原ルルのどこがいいのよ。七年も付き合って、何ひとつ進展なしじゃない』

『そ...

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