第82章

『二谷? 聞いてるの? お願い、二谷!』

藤原奥様の声が返事を待ちきれず、焦りを滲ませて何度も呼ぶ。

二谷夜子はスマホを握り締めた。

藤原右京のところへ行け、と。

あの、彼女に冷たい言葉ばかり投げてきた藤原右京のもとへ。

復讐を止めようとして、何度も立ちはだかった藤原右京のもとへ。

行きたくない。心の底から。

けれど、受話器の向こうにいるのは――夜子に本気で優しくしてくれた、藤原のおばさんだった。

断れない。胸が痛む。

『おばさん、落ち着いて。……私、今から行く』

そう言って通話を切ると、すぐにLINEが跳ねた。

藤原奥様から送られてきたのは住所と、玄関の暗証番号。

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