第86章

彼女は心底いやそうに身を翻し、背後の男を見上げた。

藤原右京はきりっと眉を寄せる。『こそこそしやがって。どこ行く気だ?』

二谷夜子は視線を落とし、蚊の鳴くような声で言った。『……帰りたい』

『その格好で?』右京の眉間の皺がさらに深くなる。『パジャマで帰るつもりか』

夜子は顔を上げ、まっすぐ右京を見据えた。『私の服は? 自分の服に着替えたら帰る』

『あのボロいワンピはもう着られねえ。捨てた』

その、いかにもどうでもよさそうな言い方が気に食わない。

昨夜あんたが乱暴にしなければ、破れるはずがなかったのに――!

夜子がまた昨夜のことに引っかかっているのを察したのか、右京の顔に露骨な...

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