第90章

二谷夜子は胸の奥がどくんと跳ね、瞬間、身体が強張った。

今の言葉……本気? それとも――。

彼女は反射的に睫毛を伏せる。

『わ、私……』

『冗談だよ』

周防景冶がくすりと笑う。その一声で、さっきまでの重たい空気がぱっとほどけ、いつもの飄々とした顔に戻った。

二谷夜子は理由もなく、ほっと息を吐く。けれど表情はどこか複雑だった。

その小さな緩みを、周防景冶は見逃さない。わざとらしく肩を落としてみせる。

『姉さん、薄情だな。傷ついた』

二谷夜子は無垢を装って目を丸くする。

『先にからかったのはそっちでしょ!』

信号が青に変わり、スポーツカーは再び車列へ滑り込んだ。

『姉さん...

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