第2章

 十五年前、母の遺体がまだ温もりを失っていないうちに、あの二人はまさしくこの日を選んで婚姻届を出した。それは美咲の提案だった。

 誠一郎は同意した。彼女の望むことなら、何から何まで承諾したのだ。

 そして今、彼らはそれを祝うために盛大なパーティーを開いている。花束、シャンパン、ケーキ、記念撮影。誰もが笑顔を浮かべていた。

 母が生きていた頃、少しでも値の張るものを買おうものなら、誠一郎は眉をひそめて「金の無駄遣いだ」と言い放っていた。

 誕生日も結婚記念日も、彼はいつも「忘れて」いた。花束一つすら買おうとはしなかった。

 ある時、母が気に入ったスカーフを見つけ、ずっとためらっていたことがあった。誠一郎は彼女の傍らに立ち、「スカーフならもう十分持っているだろう。金を節約しろ」と言った。

 母は微笑んで、そのスカーフを元の場所に戻した。帰り道、彼女は私の手を握り、「お父さんはね、ロマンチックなことが苦手なだけなのよ」と優しく呟いた。

 今になってようやく分かった。彼はロマンチックなことができなかったわけではない。ただ、母に対してそうしたくなかっただけなのだ。

 美咲は欲しいものを何でも手に入れた。豪邸も、宝石も。彼は母の命日に、自身の「愛と再生」を祝うことすら厭わなかった。

「冬木誠一郎」私は一語一語、噛み締めるように言った。

「お母さんがどうやって死んだか、覚えている? 生まれてくることさえできなかった、あなたの息子のことを覚えているの?」

 誠一郎の顔色が変わった。

「お母さんの命日に婚姻届を出して」私は言葉を止めなかった。

「そして今度は、命日にパーティーを開いている。お母さんはまだ十分に苦しんでいないとでも言うの? 彼女の骨を踏みにじってまで、お祝いをしなければ気が済まないの?」

「いい加減にしろ!」

 誠一郎は私の頬を張り飛ばした。

 パンッという、乾いた、容赦のない音が響いた。

 顔が横に弾かれ、耳鳴りがした。

「もうたくさんだ!」彼の声は震えていた。

「十五年だぞ! お前は過去にしがみついてばかりじゃないか! 死んだ人間のために、生きている人間全員を罰するつもりか?」

 彼はドアを指差した。その指先も震えている。

「出て行け! お前のような娘を持った覚えはない!」

 私は頬を押さえ、彼をじっと見つめた。

 これが私の父親だ。かつて私を肩車して花火を見せてくれた人。私が熱を出した時は一晩中起きていて、夜明けになってようやく目を閉じていた人。

 だが今、彼は美咲のために、大勢の人の前で私を平手打ちした。

 私は踵を返し、涙を流しながら会場を後にした。心は粉々に砕け散っていた。

 修平が後を追ってきたが、彼は私を抱きしめることも、痛むかと尋ねることもなかった。代わりに眉をひそめ、こう言った。

「どうしてあんなことをしたんだ? なぜみんなを不愉快にさせるようなことをする? 戻って謝りなさい。丸く収めるんだ」

 私は彼の顔を見つめ、突然、彼が全くの他人のように思えた。

 付き合い始めた頃は、たとえ私が間違っていても、彼が先に非を認めてくれた。

「僕が悪かった。君の気持ちを考えていなかったよ」いつもそう言ってくれたのに。

 プロポーズしてくれた夜、彼は片膝をつき、私の手を取って言った。

「結衣、誓うよ。今日から先、僕はいつだって君の味方だ。お母さんが君と一緒に歩めなかった道を、僕が代わりに歩いていくから」

 そう語る彼の目は、キラキラと輝いていた。

 それが今、私の目の前で眉をひそめ、美咲に謝れと言っている。

「私に約束してくれたこと、忘れちゃったの?」私は静かに尋ねた。

 彼は動きを止めた。

「えっ?」

 この世界で、母のことを覚えている人はもう誰もいなかった。あの分娩室での鮮血と叫び声を覚えているのは、私だけだ。

 修平も含めて。

 彼は、覚えていると言ってくれたのに。

 それは私たちが付き合って間もない頃だった。私は彼に母のことを話した。母がどうやって亡くなったか、美咲がどんな笑顔で私たちの家に上がり込んできたか、誠一郎が一度として墓参りにすら行かないことを。

 それを聞いた後、彼は目を赤くしていた。

「結衣」彼は私の手を握り、かすれた声で言った。

「君のお父さんみたいに、君を悲しませるようなことはしない。この日は絶対に忘れないと誓うよ。毎年この日には、君と一緒にお母さんと弟さんに会いに行くから」

 母が死んでから、「一緒にいるよ」と言ってくれた人は、彼が初めてだった。

 だが今、彼は私の手を引いて、このパーティーへと連れ込んだ。

 墓地のことは、一言も口にしなかった。

 忘れてしまったのかもしれない。あるいは、忘れることを選んだのかもしれない。

 私はこれ以上何も言わず、背を向けて立ち去った。

 叔母は長い間、沈黙していた。

「結衣」彼女の声は震えていた。

「全部、私のせいね」

「あなたと修平さんを引き合わせたのは私だもの。彼なら違うって……彼ならあなたを幸せにしてくれるって思っていたのに」

 彼女はうつむき、目を赤くした。

「兄さんがあなたのお母さんを壊して、今度は私が、あなたを壊してしまった」

「本当に、申し訳ないことをしたわ」

 私は彼女の手を握った。

「聡子おばさん。お母さんを追い詰めたのは、誠一郎と美咲よ」

「修平に関しては――」

 私は言葉を切った。

「手遅れになる前に、損切りができただけ」

 叔母は顔を上げて私を見た。その目は赤く充血していたが、そこには見慣れた感情――深い痛ましさが浮かんでいた。

「お母さんはあの人たちに死へと追いやられた」私は言った。

「私はあんなふうにはならない」

 お母さんと同じ運命を辿るつもりはない。

 たとえ、どんな代償を払おうとも。

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