第2章

「大声を出せだと? 佐藤結衣、お前は恥知らずにもほどがあるぞ!」叔父の義男が前に進み出て、私の顔に指を突きつけてきた。「我が家がどうしてお前のような人間を育ててしまったのか! 両親を早くに亡くしたお前を、うちが引き取って飯を食わせ、服を着せてやらなければ、今頃は道端で野垂れ死にしていたはずだぞ。それなのに、恩を仇で返して盗みを働き、しゃあしゃあと口答えする気か!」

「その通りよ!」静子が床から身を起こし、廊下中に響き渡るような大声で泣き喚き始めた。「皆様、ちょっと見てくださいよ! この恩知らずのろくでなしは、年老いたおばあちゃんの手術代を盗んだうえに、うちの家族をめちゃくちゃにしようとしているんです! ああ、どうして私の人生ってこんなに報われないの!」

 野次馬の数が増えていく。いつだってそうだ。涙を流し、被害者ぶる人間がいれば、世間の同情はいとも簡単にそちらへ傾く。

「いい度胸してるわね。泥棒のくせに、あんな堂々としてるなんて」

「育ててもらった恩があるだろうに。自分の家族によくあんな態度が取れるよな」

 私はその中心に立ち尽くしたまま、何も感じていなかった。

「育てた」だなんて。両親の事故の示談金二千万円と実家を奪い取り、窓の鍵が壊れた物置部屋に私を押し込み、寝返りを打つたびにフレームが軋む簡易ベッドを与えたくせに。

 コートのジッパーが壊れた年の冬は、ひと冬ずっと前を開けたまま過ごした。何かをねだることは早々に諦めていた。要求すれば事態が悪化するだけだと身をもって学んでいたからだ。家族全員が食事を終えた後、キッチンのカウンターに立ったまま冷えた残り物をかき込んだ。いつも、誰も手を出さないような不味い部位ばかりだった。大学二年の時には、四つのアルバイトを掛け持ちした。例年通り、四月と九月になって突然学費の口座残高が足りなくなったからだ。もちろん、その理由について何の説明もなかった。

 それでも彼らは、まるで多大な恩恵を施したかのように「育ててやった」と口にするのだ。

 理紗は周囲の空気が自分たちに味方しているのを察知し、ほんの一瞬だけ目を輝かせた。そして、すぐさま再び涙を浮かべてみせた。「お願い、結衣。頼むからお金を返して。警察には言わないって約束するから。私を見てよ……おばあちゃんの介護費用を貯めるために、毎日無料のジムに通い詰めてるの。有酸素運動と気合いだけで、十五キロも痩せたのよ。あなたには、少しの良心も残ってないの?」

「毎日無料のジムに通った?」私は彼女の全身を値踏みするように見回した。ウエストのくびれ方、不自然なほど平らな腹部。どれもこれも辻褄が合わない。「理紗。脂肪吸引の跡がくっきり浮かび上がってるけど、それでもジムで鍛えたって言い張るの?」

 理紗の顔から血の気が引いた。彼女の手が反射的に自らの腹部を覆う。「なっ……嘘よ。何のことか全然わからないわ」

「結衣、いい加減にしろ!」涼太が再び割って入ってきた。私から婚約を破棄されたことで潰れた顔を、ここで挽回しようと必死なのだ。彼はバッグからくしゃくしゃになった紙切れを取り出し、高く掲げてみせた。「まだシラを切るつもりか? 昨日、お前のバッグからこれを見つけたんだ。美容クリニックの領収書だよ。自分が通っていたくせに、理紗に罪をなすりつけようっていうのか?」

 野次馬たちがどよめいた。

「領収書が出てくるなんて……」

「これで決まりね。信じらんないわ」

 私はその紙切れを一瞥した。二日前に顎の吹き出物を診てもらうため、皮膚科を受診した際の千四百円の領収書だった。クリニックの正式名称には「美容皮膚科治療センター」という文字が含まれており――彼はその「美容」という言葉だけを切り取って騒ぎ立てているのだ。

 私が黙り込んだのを見て、涼太は私が観念したのだと勘違いしたらしい。彼はわざとらしく、この上なく寛大な表情を作ってみせた。「結衣、出来心だったってことはわかってる。こうしよう――俺が半分立て替えてやる。俺から百五十万だ。残りの百五十万については、ご家族に念書を書けばいい。これで今日中に片がつく。二度とこんな真似はしないと約束するなら、婚約を破棄しなくてもいいんだぞ」

「半分立て替える」だと。

 私は彼の顔をまじまじと見つめた。人前で大仰に振る舞う時、決まって彼が浮かべる独特の陶酔したような表情だった。

 彼は私を救おうとしているのではない。皆の目の前で私の棺桶に釘を打ち込みながら、称賛の拍手が湧き起こるのを待っているだけなのだ。

 彼は手を伸ばし、理紗の肩にそっと手を置いた。

 その親指の動きが止まる。ほんの半拍だけ、長く触れすぎていた。

 私はそれを一秒だけ見つめた。

 次の瞬間、私は彼を思い切り引っ叩いていた。

 平手打ちで、全力だった。彼の眼鏡が弾け飛び、床の上を滑っていった。

 彼は打たれた頬に手を当てたまま立ち尽くし、呆然と私を見つめていた。

「それが『助け』だなんて、ふざけないで」私は言い放った。「私は一円たりとも盗んでない。私をダシに使って、ヒーロー気取りで自己満足に浸るのはやめてちょうだい」私は野次馬たちを見回した。「証拠が欲しい? いいわ、証拠を見せてあげる」

 涼太が床にへたり込むよりも早く、通話はすでに繋がっていた。

「窃盗被害の通報です。慈恵総合病院の三階、循環器病棟です。現金三百万円が盗まれました。至急、来ていただけますか」

 私は通話を切った。義男、静子、そして理紗を見据える――三人とも、チョークのように真っ青な顔をしていた。

「真相がはっきりするまで、誰一人としてここから一歩も出さないから」

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