第8章

拘置所の中。

夜の拘置所の廊下は静まり返っており、時折聞こえる看守の巡回の足音と、金属製のドアが閉まる音だけがその静寂を破っていた。

正人は共同房の自分の布団に横たわり、上の段のベッドを見つめていた。頭の中は千鶴のことでいっぱいだった。三年前、彼女が記憶を失ってから、このように一人で彼女のことを考える時間はなかった。最悪の状況ではあったが、いつか彼女を守るために再び外に出られる日を夢見ていた。

「おい、新入り」

同室の二人の受刑者が正人の布団の前に立っていた。話しかけてきたのは、首元に小さな刺青の跡がある男だった。

正人は身を起こした。「何か?」

「松原という名前に見覚...

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