第1章

午後の日差しがカーテンの隙間から差し込み、私たちのマンションのフローリングに金色の縞模様を落としていた。私はコーヒーマグを置き、机の上で必死に書類をかき回している佐藤大輔の姿を見つめた。

「出張は本当に三日間も行く必要があるの?」と私は尋ねた。胸の奥がざわつくのを感じる。

「ああ、調整が必要なギャラリーの展示会があるんだ」彼は顔を上げなかった。

私は頷いたが、何かがおかしいと感じていた。大輔は普段、商業的な展示会にはまるで興味がない。彼が夢中になるのは、普通の人々が首を傾げるような、前衛的なアートプロジェクトばかりなのだ。

「荷造り、手伝おうか?」

「いや、大丈夫だ」彼はようやく私の方を向き、ストレスが溜まった時にする、あの神経質なしぐさで髪をかき上げた。「それより、ちょっと頼みがあるんだけど。パスポートを探して書斎をひっくり返しちゃって、めちゃくちゃなんだ。俺が荷造りを終える間に、片付けてくれないか?」

その頼みは少し奇妙だった。大輔は普段、自分の書斎を聖域のように扱っている。でも、彼は心底参っているように見えた。

私は肩をすくめて、彼の書斎に向かった。大輔の仕事場は、いつだって彼の聖域だった――美術理論書やスケッチ、実験的なインスタレーションの模型で埋め尽くされている。私がそこに入ることは滅多になかった。

机の上には書類や設計図が散らばっていた。

私はそれらをカテゴリー別に分類し始めた。ほとんどは照明効果や空間インスタレーションに関するもので、いかにも大輔らしい。だが、一番下の引き出しを開けたとき、写真の束が滑り落ちた。

心臓が跳ねた。

酒井茜。大輔の元カノで、ファッションデザイナーになる夢を追って大都市に引っ越した、あの茜だ。

写真の中の彼女は輝いていた――流れるような髪、デザイナーものの服、そして世界は自分のものだと言わんばかりの自信に満ちた笑顔。

私の息を本当に詰まらせたのは、その下に隠されていた書類だった。

「時間回帰理論と、その実践的応用」――大輔の几帳面な字でそう書かれていた。

ファイルを開くと、物理学の数式と実験データがびっしりと書かれたページが目に飛び込んできた。

私は美大を二年で中退したただのバリスタで、複雑な物理数式なんてちんぷんかんぷんだったけれど、「時間回帰理論と、その実践的応用」というファイル名と、「目標時間、八ヶ月前」と記された座標計算シートは、全てをあまりにも明白に物語っていた。大輔が、過去に戻る方法を研究しているということを。

一体、どういうこと?頭が混乱する。引き出しからはさらに書類がこぼれ落ちた。機器の購入注文書、構造設計図、さらには詳細な時間座標の計算まで。

八ヶ月前。それは、大輔と茜が別れた時期そのものだった。

「美月?」

はっと振り返ると、大輔が戸口に立っていた。彼の背後、廊下には、いつでも出かけられるようにスーツケースが置かれている。

「これ、何?」私は写真と書類を掲げた。声が震えていた。「どうしてまだ彼女の写真を? どうしてこんな……こんなタイムトラベルみたいなものを研究してるの?」

大輔は駆け寄ってきて、私の手から書類を奪い取ろうとした。「それは……ただの理論研究だ。意味のないものだよ。アートインスタレーションの構想で……」

「嘘つかないで!」私は書類を胸に抱きしめ、後ずさった。「ここには機材リストも、建設計画も、具体的な時間座標まである! こんなのアートの構想なんかじゃない、大輔。これは本物よ!」

彼の肩ががっくりと落ちた。その、現行犯で捕まったような表情が、私が知るべきことのすべてを物語っていた。

「美月、君には分からないよ」彼の声はほとんど囁きだった。「いくつかのこと……いくつかの過ちは、やり直せるんだ」

私たちが初めて会ったとき、彼がどれほど神経質で不器用だったかを思い出す。この街の喫茶店で、どうやって人と繋がり、関係を築いていくのかを、私が彼に教えたのだ。

あの頃、私は彼が私を好きだから学びたいのだと思っていた。今、私は自分が、彼が自分を磨くために利用したただの道具だったことに気づいた。

「それがあなたの計画なの? 過去に戻って、私が教えたこと全部を使って、彼女を取り戻すって?」

大輔は答えなかったが、その瞳に浮かぶ罪悪感がすべてを語っていた。

私は書類を置き、心が粉々に砕けていくのを感じた。「ねえ、大輔? 私たちの関係は本物だと思ってた。あなたは本当に私のことを大切に思ってくれてるって」

「美月、俺は――」

「もういい」私は彼の言葉を遮った。「出張、楽しんできて」

私は書斎を出た。彼が私の名前を呼ぶのが聞こえたが、振り返らなかった。

数時間後、夜が更けた頃、大輔が動き回る音が聞こえた。彼は私が眠っていると思い、静かにしようとしていた。でも私はずっとベッドに横たわり、天井を見つめながら、あの書類と写真を心の中で再生し続けていた。

地下室から機械音が聞こえてきたとき、彼が出張に行くつもりなどないのだと確信した。

私はベッドから滑り降り、地下室の入り口へと忍び寄った。大輔は地下室の一部を、私がこれまで単なるもう一つの仕事場だと思い込んでいた空間に改造していた。しかし今、半開きになったドアの向こうに、私はこれまで一度も見たことのないものを見た。

中央に光る制御コンソールを備えた、巨大なリング状の構造物。ケーブルと光ファイバーが部屋中の様々な機器を繋ぎ、すべてがエネルギーを帯びて唸りを上げている。大輔はコントロールパネルの前に立ち、パラメーターを調整していた。

「茜、やっと君の元へ戻る方法を見つけたよ」彼の声は静かだったが、静かな地下室にはっきりと響いた。「今度は、君を失ったりしない」

私は壁に寄りかかり、胸が張り裂けるような思いを感じた。彼は本当にやるつもりなのだ。私は、彼にとって本当に何の意味もなかったのだ。

「空間座標、ロック完了。目標時間、八ヶ月前」機械的な音声が告げた。「システム準備完了。起動を承認してください」

大輔は深く息を吸い込み、起動ボタンに手を置いた。

彼が愛していたのは、私じゃなかった。

その時、装置が起動した。巨大なエネルギーがリング状の構造物の中で渦を巻き、まばゆい渦を形成する。空気はオゾンの匂いで満たされ、静電気で私の髪が逆立った。

でも、彼を一人で行かせるわけにはいかなかった。彼が後悔をやり直すために私を捨て、私がここで彼の裏切りと向き合うなんて、そんなことは許せない。もし彼がどうしても戻るというのなら、私は真実を知る必要があった。私が決して敵わないほど、あの女を特別な存在にしたものが何なのか、この目で見なければ。

「大輔!」私は影から飛び出し、エネルギーの渦に向かって走り出した。

彼は振り返り、その顔には衝撃が刻まれていた。「美月?」

「あなたが行くなら、私も真実を知りに行く!」私は速度を落とさずに叫んだ。

時間渦のエネルギーはさらに強まり、光り輝く中心に向かって巨大な引力で引きずり込まれるのを感じた。大輔は私を止めようと手を伸ばしたが、もう遅かった。

光が、すべてを飲み込んだ。

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