第68章

 小島奈緒は唇をきゅっと噛んだ。結局、何がいちばん大事なのかは分かっている。だからもう一度、風間怜司を断った。理由はもちろん、また「お婆さん」だ。

 ……とはいえ、言い訳というほどでもない。彼女は本当に、一晩中家を空けられない。

 風間怜司も一応は誘ってみたが、断られるのは想定内だった。小島奈緒がどういう人間かも、置かれている状況も、彼はよく知っている。

 それでも、失望だけは隠さなかった。隠す必要なんてない。むしろ、相手に伝わるべき感情だ。

 案の定、小島奈緒の目にかすかな痛みが浮かぶ。彼女は小さな声で言った。

「じゃあ……どこかに停めて、私が……ちょっと、してあげよっか?」

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