第181章

「まさか……」

神代雪璃の小鼻に、じわりと脂汗が滲んだ。

脳裏で火花が散るように、ある記憶が蘇る。以前、声を潜めるように注意してきた老婆が言っていたはずだ。夫が肝臓癌なのだと。そして霧生(きりゅう)老人を蝕んでいるのも同じ肝臓癌であり、しかも同じ階に入院しているとなれば――。

彼女は力の入らない指先を震わせながら、前方の病室を指差した。

「あそこです」

努めて冷静さを装う。

風間凛は上体を起こして彼女が示した方向を一瞥すると、見舞いの品をぶら下げて大股で歩き出した。

神代雪璃はその背中を追ったが、霧生老人への言い訳がまだまとまっていない。少しでも時間を稼ごうと、極力歩みを緩めた...

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