第32章

神代雪璃の体が、強張った。

彼が口にしたのは「神代雪璃」というフルネームだ。

かつてのような、親しみを込めた「雪璃ちゃん」ではない。

幼い頃からそうだった。テストで一位を取った時も、ダンスの大会で優勝した時も、父は誇らしげに私を抱き上げ、何度も「雪璃ちゃん」と呼んでくれたのに。

だが今の彼にとって、その名は記号に過ぎない。

声には一切の感情がこもっておらず、まるで赤の他人の名を呼んでいるかのような響きだった。

不意に、乾いた笑いが込み上げてきた。

だが、すぐに冷めた諦めが胸を満たす。とうの昔に捨てられた娘なのだ。今さら名前の呼び方ひとつで心を痛めるなど、滑稽でしかない。

彼女...

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