第39章

しかし霧生嵐は彼女に視線一つ寄越さず、足早に脇にある男子トイレへと消えていった。

神代雪璃の手は空中でしばし行き場を失い、やがて力なく太腿の横へと垂れ落ちた。

さっきの自分は、どうかしていたに違いない。彼が嫉妬して怒っているなどと、どうしてそんな滑稽な勘違いをしてしまったのだろう?

彼が愛しているのは月見優心だ。今の自分は、彼の最愛の人を傷つけ、彼に憎まれ、報復を受けているだけの哀れな虫けらに過ぎない。

機嫌を取ることで、その報復から逃れられれば御の字だというのに、どうしてまだ幻想を抱いてしまうのか。

「そんなに霧生嵐が好きなのか?」

月見映司が複雑な表情で彼女を見つめた。

「...

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