第169章

小野寺春馬が姿を現した瞬間、小野寺允樹は氷上雅子の手を引いていた動きを、ふっと止めた。――そして私の視線を追うように、目の前の春馬を疑うような、怯えるような目で見つめる。

小野寺春馬は相変わらず笑っていた。無害を装ったまま、軽い調子で言う。

「叔母さんの言う通りだね。さっきから散々しゃべっておいて、名乗るの忘れてた。君たち……まさか、俺のこと忘れたの?」

泣いていた氷上雅子は、頬の涙の跡も乾かないうちに、悲しみが一気に恐怖へと塗り替わった。声が震える。

「……何を言ってるの? あなたが……春馬? そんなはずない。さっきは春馬の友だちだって……どうして、あなたが春馬なの……?」

春馬...

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