第50章

この映画、真剣に観ているのは私と小野寺礼臣だけみたいだった。

夏川清美はスクリーンの内容なんてまるで頭に入っていない。ひたすら電話をかけ続けていて、表情は最初こそ余裕があったのに、だんだん焦りに染まり、最後には今にも爆発しそうだった。

ようやく電話がつながった瞬間、声の抑えが利かなかった。

「允樹兄さん、もう映画始まってるの。早く戻ってきてくれない? ポップコーンなくても、私、食べなくていいから」

前の列の客が次々に振り返り、露骨に咎める目を向けてくる。

けれど清美はまるで気にしない。相手が何か言ったらしく、眉がぎゅっと寄った。

「戻ってこないなら、私ずっとここで待つから」

つ...

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