第20章 悲しい

「『幽霊』を見つけるまでは、藤堂グループに出勤する。続けるから」

冬木澪は淡々と言い切ると、キャリーケースの取っ手を握り、振り返りもせず玄関へ向かった。

扉が開く。ひやりとした外気が一瞬だけ流れ込み、次の瞬間にはその小さな背中が――すとん、と視界から落ちるように消える。

リビングに残ったのは藤堂湊ひとり。

立ち尽くしたまま、風化した彫像みたいに動けない。

空気の底にはまだ、彼女の気配がうっすら残っていた。苺みたいに甘いのに、どこまでも冷たい匂い。

藤堂湊。藤堂グループの実権を握り、商いの場では思いのままに雲を起こし雨を降らせてきた男。

その男が初めて知った。

どうにもできない...

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