第25章 博士

空気が、一瞬、凍りついた。

藤堂湊は胸元の惨状へ視線を落とし、それからゆっくり顔を上げる。氷を鍛えた刃みたいな眼差しが、血の気を失った橋本日奈の顔を寸分違わず捉えた。

怒鳴らない。噛みつかない。

むしろ普段より低い声だった。静かな宴会場に、息が詰まるほどの圧だけがはっきりと通っていく。

「橋本さん」

藤堂湊はそう呼んだ。もう日奈とは呼ばない。続く言葉は、氷の玉が床に落ちるみたいに冷たかった。

「手、そんなに震えるのか?」

「橋本グループ、最近よほど資金繰りが苦しいんだな。プレッシャーでグラスも持てない?」

橋本日奈の肩がびくりと跳ね、顔色が紙みたいに真っ白になる。

藤堂湊は...

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