第38章 遺品を盗む

H市の冬は、冷気が目に見えない刃になって街路をなぞる。肌の上を、しゃり、と薄く削っていくみたいに。

冬木澪は藤堂グループのビルを出ると、そのまま角の馴染みのカフェへ向かった。

「ホットのアメリカーノ。ラージで」

店員に告げた声は、寒さに凍らされて少しだけ短い。

受け取りを待つ間、澪の視線は癖みたいに通りの向こうをさらう。

目立たない黒いセダンが、路肩の臨時スペースに停まっていた。窓はきっちり閉じたまま。

店員がカップを差し出した、その瞬間。

黒いセダンの後部座席の窓が、音もなくほんの少しだけ下がった。

すっと伸びた女の手。細い手首、白くて滑らかな肌。

果物屋の店主が、待って...

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