第53章 挑発

橋本日奈が警察署を出たとき、雪はちょうど本降りになっていた。

冷たい雪片が頬に落ちては溶け、筋になって伝う。拭いきれなかった涙の跡と混じり合い、彼女の顔をいっそうみじめに見せた。

だから――藤堂颯太のマンションに足を踏み入れるなり、日奈はバッグを床へ叩きつけた。

「藤堂颯太! ちょっと見てよ、私を!」

かん高い声。泣き声を噛み殺しきれず、崩れたメイクがそれを裏づけている。アイラインは滲んで、目の下に黒い影を作っていた。

「会社は出勤停止、ネットは悪口だらけ!」

「全部、冬木澪のせいよ!」

颯太はソファに沈み、スマホを眺めていた。事情の一端は、すでに把握している。

けれど幼いこ...

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