第60章 出張

「学生だよ」

冬木澪はキーボードを叩く手を止めない。

「昨日、ちょっと助けただけ」

――やっぱり、弟じゃない。

でも……昨日知り合ったばかり?

それで今日もう、藤堂グループ技術部長室に出入り?

藤堂湊は胸の奥がざわついた。本当なら何か言ってやりたい。だが、冬木澪の横顔は理性的で、静かで、揺るがない。

彼は息をひとつ飲み込み、言いかけた言葉を喉の奥へ押し戻した。視線が給湯スペースへ流れる。朝の粥が入った容器は棚の上に置きっぱなしで、すっかり冷めていた。

藤堂湊がふいに言う。

「明日の夜、レセプションがある。来ないか」

冬木澪は顔も上げない。忙しくなると、周りのことを切り捨て...

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