第65章 旧知

「覚えてない」

冬木澪はイヤリングを外し、カウンターの上にそっと戻した。

「仕事が多すぎてさ。そんなに記憶よくないの」

竹内詩織が二人の腕を引っ張って、そのまま外へ連れ出す。

「いいじゃん、飯行こ」

「今行かないと昼はパン齧ることになるよ!」

小さな店の前には、すでに長い列ができていた。

竹内詩織は二人を木陰に待たせ、自分だけ列へと突っ込んでいく。

小林詩乃は、日差しでほんのり赤くなった冬木澪の耳たぶを見て、ふっと笑った。

「澪って、こうやって遊びに出るの、あんまりないよね」

「うん」

冬木澪は短く返し、少し先の飴細工の屋台に視線を落とす。

「前は忙しかった」

「今...

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