第76章 危機

橋本日奈はそのころ、部屋でマタニティ用のゆったりしたワンピースを試着していた。

鼻歌まじりに鏡の前でくるりと回り、口元に浮かんだ笑みは得意げで、どこか挑発的ですらある。

自分の上に、すでに影が静かに落ち始めていることなど――彼女はまだ知らない。

冬木澪は書斎の窓辺に立ち、リビングの扉の向こうへ高瀬梅子の影が消えていくのを見届けると、そっと息を吐いた。

この茶番は、藤堂家でようやく幕が上がったばかりなのだろう。

――三日後。

朝の光が病院の廊下のガラス窓を淡く染めていた。

冬木澪が病室の扉を押し開けると、久保さんはベッドのヘッドボードにもたれかかるようにして半身を起こしていた。顔...

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