第9章 無感覚になる

小林花子の顔色が、すっと血の気を失った。口紅を引いた唇が、かすかに震える。

「うちの父も、あんたみたいな“可哀想な顔”に騙されたんでしょ」

冬木澪は一歩詰める。眼差しは冷え切っていた。

「伴侶を亡くした研究者が、研究室で優しくて気の利く助手に出会う……完璧な筋書き」

「で、あんたは名役者」

小林花子の瞳に一瞬だけ狼狽が走る。だがすぐに落ち着いたふりをして、ガウンの襟元を整えた。意味ありげな笑み。

「あなたのお父さま……特別な方だったわ。賢くて優秀で、それでいて……とても孤独で」

「私は、ちゃんと支えて――」

ふいに何かを思い出したのか、小林花子は慌てる様子もなくソファへ歩き、...

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