第2章

愛美の視点

最初のページは、私たちの婚前契約書だった。

びっしりと並んだ法律専門用語に頭がくらくらしたが、無理やり一行ずつ読み進めた。三年間の契約期間、財産分与、そして「婚姻の解消不可」に関する条項。

撤回不能? 私は必死でページをめくり、抜け穴を探した。五ページ目の下部、小さな文字で書かれた脚注に、私は凍り付いた。

『本契約は、強要、詐欺、または重要事項の虚偽説明があった場合、無効と見なされることがある』

強要! これが鍵よ! でも、強要があったと証明するには証拠が必要だ。

次のページは父の借金リストだった。五千万円。一つ一つの賭博の借金と債権者の名前が詳述されている。でも、待って……日付がおかしい。

目を凝らして注意深く見ると、心臓が沈むような思いがした。最大の借金――二千万円――の日付は、父が亡くなる一ヶ月前になっている。でも、父がギャンブルをやめてから、もう半年は経っていたはずだ。二度と手を出さないと誓っていたのに。

私の手が震え始めた。この借金……偽造されたもの?

探し続けると、さらに怪しい書類が見つかった。銀行の送金記録。しかし、受取人の名前はすべて黒く塗りつぶされている。それから、フォルダーの一番下に隠すように折りたたまれた、病院の診断書らしきものもあった。

その診断書を開こうとした、まさにその時、エレベーターの到着を告げる音が聞こえた。

しまった! 彼が帰ってきた!

必死で書類を元に戻そうとしたが、手がひどく震えて、書類がそこら中に散らばってしまった。足音はどんどん近づいてくる。整理している時間はない。私はとっさに契約書といくつかの怪しい書類を服の中に押し込んだ。

「愛美?」廊下から彼の声がした。「ノートパソコンを忘れてしまって……」

私は床にうずくまり、散らばった書類を必死でかき集める。心臓が張り裂けそうだった。

足音が書斎のドアの前で止まった。

「探し物かい?」彼の声は穏やかだったが、その中に緊張が混じっているのが分かった。

私は凍りつき、ゆっくりと顔を上げた。大輝が戸口に立っていた。顔は青ざめ、その瞳には苦痛と……そして恐怖?が浮かんでいた。

「私の自由を」。私は立ち上がり、服の中に隠した書類を握りしめた。「離婚して、大輝」

彼は完全に硬直し、その視線は床に散らばった書類の上を走り、そして私の顔に突き刺さった。「愛美……」

「私を愛してるなんて戯言はよして」。私は彼の言葉を遮った。「本当に愛しているなら、私を解放してくれるはずよ」

「できないんだ」彼の声は震えていた。「契約が……」

「契約なんてどうでもいい!」私は叫んだ。「こんなの結婚じゃない、監禁よ!それに……」私は契約書を突き出した。「この契約は詐欺の上に成り立っている!父さんの借金は嘘なんでしょう!」

彼の顔が、瞬時に死人のように白くなった。

「この日付、この債権者……」私は書類を掲げた。「全部あなたがでっち上げたのよ!」

「愛美、説明させてくれ……」

その時、彼の携帯が鳴り、画面が光った。そこに表示された写真が目に飛び込んできた――父の顔。亡くなる前の、最後の写真だった。

全身の血が凍りついた。「どうして……」私は震える声で彼の携帯を指さした。「どうしてあなたの携帯に、父さんの写真が入ってるの?」

大輝は慌てて携帯の画面を消したが、もう遅い。私は見てしまった。

「あなた……」私は後ずさり、すべてを悟った。「父さんのことを知ってたの?亡くなる前から、知っていたのね?」

彼は答えなかった。だが、その表情がすべてを物語っていた。

「なんてこと……」私は口を覆った。胃がひっくり返るような吐き気がこみ上げてくる。「全部あなたが仕組んだことだったのね?借金も、葬式も、あの債権者たちも……何もかも、あなたの仕業ね、大輝!」

「愛美、話を聞いてくれ……」

「説明?」私は狂ったように笑った。「今さら何を説明するっていうの?あなたはまず私を犯し、それから三年間もかけてこんな計画を立てて、私を追い詰めて、あなたと結婚せざるを得ない状況にした!」

「違うんだ!」彼が一歩前に出たが、私はすぐに身を引いた。

「じゃあ、どう違うっていうの?」私は激しく問い詰めた。「言いなさいよ、大輝!どうやって父さんを破滅させたのか!どうやって私を、一歩ずつ、この隅に追い詰めたのか、言いなさい!」

彼は何かを言おうと口を開き、そしてまた閉じた。その顔には苦痛と罪悪感が刻まれていたが、それでも彼は何も言わなかった。

私は彼を見つめた――かつて何かを感じ、今では心の底から憎んでいるこの男を。すると突然、骨の髄まで染み渡るような疲労感が私を襲った。

「何が一番悲しいか分かる?」私の声は次第に落ち着いていった。「私、これがただの偶然だと思ってた。ひどくねじれた、最悪の偶然だと。でも今なら分かる――私の人生そのものが、あなたの周到に仕組んだゲームだったのね」

私はゆっくりと向きを変え、床から天井まである巨大な窓へと歩み寄った。五十階の下では、帝都が午後の日差しを浴びてきらめき、車は蟻のように、歩行者は川の流れのように行き交っている。たくさんの人々が自分の人生を生きているというのに、私は鳥籠の鳥のように、ここに閉じ込められている。

「愛美……」背後から、彼が慎重に、ためらいがちに近づこうとする声がした。

「出ていって」私は振り返らず、空虚な声で言った。「今すぐ出ていって。あなたに少しでも人間らしい心が残っているなら、しばらく一人にして」

背後でためらうような足音が聞こえ、長い間止まった後、ゆっくりと遠ざかっていった。エレベーターのドアが開き、閉まる。そして、死のような静寂が訪れた。

『本当にこのまま一生を過ごすの……私を犯した男と?』

冷たいガラスに額を押し付けると、吐息で瞬時にガラスが曇った。五十階の高さ。その考えが、単純でありながらも魅惑的に、ふと頭をよぎった。窓を開け、あの朝の空に足を踏み出せば、最後の、完全な自由が手に入る。

ビルは風でほとんど感じないほどに揺れていた。私は目を閉じ、落下する感覚を想像した。

だが、この手にはあの書類が握られている。証拠だ。まだ、まだ希望はあるのかもしれない。


アパートを出た私は、新都心で一番の法律事務所へと直行した。偽造された借金リスト、怪しい銀行の送金記録――これだけあれば、結婚契約全体が詐欺に基づいていると証明できるはずだ。

しかし、現実は私に厳しい平手打ちを食らわせた。

最初の事務所では、受付の女性が「十条さん」と聞いた途端に表情を変え、「当事務所の弁護士は全員大変忙しくしておりまして」と丁重に断ってきた。二番目の事務所では、禿げ頭の弁護士が書類を五分ほど眺めた後、首を横に振った。「十条さんは帝都で絶大な影響力をお持ちです。申し訳ありませんが、我々ではお力になれません」。三番目の事務所は、会ってさえくれなかった。

くそっ。金の力はどこにでも及ぶ。

午後四時、私は最後の法律事務所から疲れ果てて出てきた。帝都の冷たい風がナイフのように顔を切り裂くが、寒さは感じない。ただ、絶望による麻痺があるだけだ。

帰り道、私は最後の勇気を振り絞って高橋の番号に電話をかけた。これが最後の望みだった。

「高橋法律事務所です。ご用件をどうぞ」

「桜井愛美と申します。緊急でご相談があるのですが、高橋先生はいらっしゃいますか」私の声はわずかに震えていた。

数分待たされた後、高橋の聞き慣れた、しかし冷たい声が聞こえてきた。「今のあなたは桜井ではなく十条だろう、で、愛美さん、こんにちは。いかがなさいましたか?」

「離婚したいんです」私は単刀直入に言った。「この結婚契約が詐欺に基づいているという証拠があります。高橋さん、あなたに助けてもらわなければ」

電話の向こうの沈黙があまりに長く、切られたのかと思った。

「愛美さん、以前にもお話ししましたが、婚前契約書によれば、三年間はどちらの当事者も離婚を申し立てることはできません……」

「父の借金は偽造されたものだったのよ!」私は声を荒らげた。絶望が声ににじむ。「契約書全体が嘘で固められてるの!高橋さん、あなたは何か知ってるはずよ、絶対に知ってるはず!」

再び沈黙。それから高橋は咳払いをした。「愛美さん、大変申し訳ありませんが、契約は法的に有効です。あなたが詐欺や強要を証明できない限りは……」

「強要?」私は乾いた笑いを漏らした。声が甲高くなる。「この結婚自体が強要そのものよ!でも誰が信じるっていうの?帝都一の金持ちを相手に、頭のおかしい女の言うことなんて」

「愛美さん、聞いてください。心理的な助けを求めることをお勧めします。PTSDは、その……非現実的な思考を引き起こすことがあります。専門的な治療を受ければ……」

非現実的な思考、か?彼も、私のことを狂ってるって思ってるのね。

「ふざけんな!」私は電話を切り、携帯を地面に叩きつけそうになった。

交差点の角に立ち、通り過ぎる人々の群れを眺めていると、かつてないほどの孤独を感じた。誰もが自分の人生を、自分の自由を生きている。一方の私は、巧妙に織られた檻の中に閉じ込められているのだ。

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