第8章

新井紬視点

廊下に小林颯の足音が響く。一歩一歩が、まるで死神が私たちのドアを叩いているかのようだ。

緊張で掌に汗が滲んでいたが、私は必死に平静を装った。ソファに座る伊藤裕太は顔面蒼白で、本当に精神が崩壊した人間のようだった。

「いい」と私は囁いた。

「彼が入ってきたら、計画通りにお願い」

ドアが押し開けられ、小林颯がリビングに踏み込んできた。その後ろには護衛が二人。その肉付きのいい顔には、得意げな笑みが浮かんでいた。

「若様」

小林颯は嘲るように言った。

「この女のセラピーにずいぶん協力的だったそうじゃないか?」

伊藤裕太は疲労感に満ちた目で顔を上げた。見事な演...

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