第9章

新井紬視点

月影ホテルが籐香通りにそびえ立ち、色鮮やかなネオンが煌めいていた。

まるでおとぎ話の城のようだったが、その内部にどれほどの恐怖が隠されているか、私にはわかっていた。

私たちは従業員用の入口から中へ入った。伊藤裕太はこの場所に詳しく、監視カメラを巧みに避けながら進んでいく。

「屋上は三十二階だ」

歩きながら彼が言った。

「だが、エレベーターは監視されている。階段を使うしかない」

三十二階分も階段を上るのか。すでに足がガクガクしてきた。

二十階にたどり着く頃には、私は息も絶え絶えだった。伊藤裕太は明らかに私より体力があったが、それでも汗を滲ませ始めていた...

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