第1話
「出て行け」
ジョーイの声は氷のように冷たく、私を一瞥することさえなかった。
私はうつむき、淹れたてのコーヒーを彼の机の上に置いた。
「ジョーイ、コーヒーです」
彼は顔を上げることなく、書類に目をやりながら、もう一方の手でスマホを握り、私が今まで聞いたことのないほど優しい口調で言った。
「クロエ、騒がないで。この仕事を片付けたら、すぐに行くから」
「いい子ね。心臓が安定したばかりなんだから、感情的になってはいけない」
私の胸の中、あの冷たい人工心臓が、かすかな機械音を響かせた。
それは私に、本来私のものであるはずの心臓が、今この瞬間、別の女性の胸の中で鼓動していることを思い出させていた。
その女性こそ、ジョーイの初恋の相手、クロエだ。
今の私はステラ。新たに就任したジョーイの社長秘書。
そしてデイジーでもある。
彼のためにすべてを捧げたのに、彼の手によって手術台に押し上げられ、生きたまま心臓を摘出された愚か者。
「人の言葉が分からないのか?」
ジョーイは電話を切ると、ようやく顔を上げ、眉間に苛立ちを浮かべた。
「インスタントコーヒーなんて飲まない。人事部はルールを教えてくれなかったのか?」
私は慌てて謝った。「すみません、すぐにハンドグラインダーで挽いたものに取り替えます」
私が背を向けて立ち去ろうとすると、彼は私を呼び止めた。
「待て」
彼は立ち上がり、一歩一歩近づいてくる。支配者特有の圧迫感が押し寄せてくる。
「新入りか?」
「はい」
「名前は?」
「ステラです」
彼は私の顎をつかんで無理やり顔を上げさせた。かつて私を虜にしたその瞳は、今や冷徹な視線と冷たさだけを残している。
「まあ、そこそこの顔だ。顔だけでオーロラ・グローバル・グループに入ろうというのか?」
私は屈辱を堪え、無理やり媚びるような笑みを浮かべた。
「オーロラで働けることは、私の光栄です」
彼は鼻で笑うと、手を離し、ハンカチで嫌そうに指を拭った。
「そんな無駄な野心は捨てろ」
「コーヒーを淹れるだけの飾り物なんて要らない」
「今月のM&A案件、まともな企画書を出せなかったら、即刻出て行け」
そう言うと、彼は上着を手に取り、そのまま立ち去った。部屋には静寂だけが残った。
私はその場に立ち尽くし、胸の中の人工心臓が再びかすかな「ブーン」という音を立てるまで、ゆっくりと我に返ることができなかった。
企画書。
かつて、それは私が最も得意としていたことだった。
あの頃、私は彼を、誰からも注目されない一族の次男から、一歩一歩社長の座へと押し上げ、これよりも百倍も複雑な案件を処理してきた。
だが、彼は忘れていた。
すっかり忘れていた。
まあいい。そうしてこそ、私はゲームを存分に楽しめるのだから。
私は三日間を費やし、完璧な企画書をジョーイの机の上に置いた。
彼が見終えると、その顔にようやく微かな動揺が浮かんだ。
「これは本当に君が作ったのか?」
「はい」
彼は私をじっと見つめ、私の顔から何か不審な点を見つけ出そうとしているようだった。
「なかなか面白いな」
彼は企画書を私に放り返した。
「細部をもう少し練り直せ。今夜8時、俺と一緒に得意先に会いに行け」
私は胸の冷たさを押し殺し、従順に頷いた。
「はい、ジョーイ様」
夜、私はジョーイについて、一流のプライベートクラブへと向かった。
個室のドアが開くと、主席には圧倒的なオーラを放つ中年の男が座っていた。
彼は全身黒のオーダーメイドスーツを身にまとい、ただ座っているだけで、怒らなくても威圧感を感じさせた。
ジョーイでさえ、彼の前では傲慢さをすべて抑え、恭しく声を上げた。
「父さん」
これがオーロラの真の支配者、ジョーイの父、イーサンだ。
ビジネス界の風雲児、伝説の人物だ。
イーサンの視線がジョーイを淡々と通り過ぎ、最後に私へと注がれた。
「君は新しい助手か?」
私はうつむき、恭しく答えた。「イーサン様、私はステラと申します」
「ステラ?」イーサンは私の名前を口ずさみ、その口調は読めなかった。「顔を上げなさい」
私は言われた通りに顔を上げ、彼の底知れぬ瞳と視線を合わせた。
その瞬間、彼の瞳に一瞬、驚きと戸惑いが走ったのが見えた。
私は知っている。この顔は、ジョージの巧みな手によって、かつてのデイジーとは大部違っているものの、それでも彼女の面影は残っている。
デイジーをよく知る人なら、かすかに、あるようなないような親近感を覚えるほどに。
「私の旧知の友人にそっくりだ」
イーサンはゆっくりと口を開き、その声には微かに聞き取りにくい掠れが混じっていた。
ジョーイの表情が曇った。
「父さん、彼女はただの助手だよ」
「助手?」イーサンは顔だけ笑った。「ジョーイ、いつから君の目利きはそんなに悪くなったんだ?」
彼は立ち上がり、私の前に歩み寄ると、自ら私の隣の椅子を引き出した。
「ステラ、座って」
その仕草で、個室全体の空気が凍りついた。
イーサンの隣の席に、そう簡単に人を座らせることはないと、誰もが知っていたからだ。
私は少し戸惑いながらもイーサンに目を向けた。彼の顔はこわばったが、怒りを露わにすることはなかった。
私は素直に座った。
「ジョーイ、出て行け」イーサンは淡々と言った。「ステラと二人きりで話したい」
ジョーイの拳が瞬時に握りしめられた。
「父さん、俺たちはビジネスの話をするために来たんだ」
「ビジネス?」イーサンは手首の腕時計を回しながら、淡々とした口調で言った。「オーロラ全体が俺のものだ。誰と話をしたいか、それは俺が決める」
「君でも、彼女でも、俺にとっては同じことだ」
この言葉は、間違いなく人前でジョーイに平手打ちを食らわせたようなものだった。
彼は私を鋭く睨みつけ、その眼差しはまるで私を死刑にかけようとしているかのようだった。
私はただうつむき、無垢で途方に暮れた新入社員を演じていた。
結局、ジョーイはドアをバタンと閉めて出て行った。
個室には私とイーサンだけが残された。
彼は自ら私のために茶を注いでくれた。その仕草は優雅だったが、疑いようのない強さを帯びていた。
「怖がらないで。あいつは君に手を出したりはしない」
私は茶碗を手に取り、小声で礼を言った。
「君はステラ?」
「はい」
「その名前は、気に入らないな」イーサンは私を見つめ、一語一語はっきりと言った。「これからは、デイジーと呼ぶんだ」
デイジー。
私の手が震えた。お茶がこぼれ、手の甲に熱く染み込んだ。
「ごめんなさい、イーサン様、私……」
しかし彼は私の手を握り、ハンカチを取り出して、丁寧に拭いてくれた。
彼の指は温かく、ジョーイの冷たさとは全く違っていた。
「俺が怖いのか?」
「いいえ」
「なら、なぜ震えている?」
胸の中の人工心臓の鼓動が速まっているのを感じた。それはシステムからの警告だ。
感情の起伏を大きくしてはいけない。
私は無理やり冷静になり、顔を上げて彼の目を見つめた。
「イーサン様のオーラが強すぎて、少し緊張してしまって」
彼は笑って、私の手を離した。
「明日から、私の助手になってくれ」
「給料は、ジョーイのところの10倍だ」
「オーロラの株式の1%を君に与える」
