第1章
「魔導構築術本大会」で、同室の生徒が私より先に舞台へ躍り出て、ついさっき私が頭の中で組み上げたばかりのルーン行列を、そのまま披露してみせた。
露骨な盗用だと詰め寄った瞬間、彼女はその場でわっと泣き出した。
「私が盗んだって言うの? でも、証拠になるスケッチが一枚でもあるの?」
審査員席に座っていた彼氏の竜也は、公衆の面前で私を断罪した。
彼は私を負け犬の負け惜しみだと罵り、悪意に満ちた中傷が心底気持ち悪いと鼻で笑った。
構築は私の精神の海の中だけに存在していた。だから形に残る証拠など、どこにもない。
私は嫉妬深い虐めっ子として汚名を着せられて断罪され、ついには凄まじい魔力の反動が私の身体を引き裂いた。
息が途切れるその瞬間まで、どうしても分からなかった。頭の中でシミュレーションしただけの極秘の構築を、どうやって彼女は一片の痕跡も残さず完璧に盗み取れたのか。
もう一度目を開けたとき、私は生まれ変わっていた――あの大会の、まさに始まりの時点へと。
同室の葉山理奈が一歩踏み出し、ホログラム投影機へ駆け出そうとするのを見て、私は彼女の手首をぎゅっと掴んだ。
今度は、私が先に行く。
スポットライトが落ち、眩い白光に目を閉じさせられる。
その刹那、天井を割らんばかりの歓声が、耳の奥に残っていた死んだような耳鳴りまで粉々に砕いた。
私は生まれ変わった。魔導構築術本大会、その開幕の一瞬に、寸分違わず戻ってきたのだ。
私がその場で固まっているのを見て、観客席の一般生たちは不安げに応援旗を握りしめ、喉が裂けるほど叫ぶ。
「映美、しっかりして! やれるところ見せて、叩き潰して! あなたは一般生の誇りなんだから! 今日は絶対優勝だよ!」
耳をつんざく怒号の向こうで、対戦者として私のすぐ隣に並ぶ理奈がこちらを振り向いた。彼女はいつもの、憧れを滲ませながらも、どこか哀れなくらい無防備な笑みへと、淀みなく切り替える。
「映美、また私たち二人きりだね」
「四年間ずっと、あなたの後ろの二位に縛りつけられてきた。でも、今日の決勝戦は……たとえ私はあなたの引き立て役の運命でも、全力でやるよ」
作り物めいた無垢な顔を見つめても、私の胸に温もりは欠片も湧かなかった。代わりに、爪が掌の肉へ深く食い込む。
前世の幻の痛み――魔力の反動に身体を裂かれ、血を流しながら崩れ落ちていったあの苦痛が、神経を真っ直ぐ貫いてくる。
この四年間、理奈と私は寮の同じ部屋で暮らし、学園では常に一位と二位をさらってきた。
彼女は大財閥の令嬢だ。入学の時点から誰の目にも分かる光輪をまとい、最高級の魔導資源にいくらでも手が届く。
一方の私はスラム街上がりで、追加の魔導書を一冊買う金すらないほど貧しかった。
それでも、精神容量と術式構築の才だけは、いつだって彼女を凌駕していた。
大試験だろうが小テストだろうが関係ない。私は常に一位で、彼女は二位に甘んじるしかない。
私は一度も退かなかった。学園の貴族たちから浴びせられる露骨な敵意に真正面から抗い、この大会の決勝まで勝ち上がり、最後に彼女との一騎討ちに辿り着いた。
理解できなかった。前世では、即興課題が発表されたその瞬間、どうして彼女は私より先に舞台へ飛び出し、私の頭に生まれたばかりの行列を寸分違わず、完璧に発動できたのか。
前世の私は、理奈が観客の崇拝を一身に浴びるのを見て、眩むほどの、信じがたい怒りに塗りつぶされていった。
規則なんて投げ捨て、私は血走った目のまま彼女に突進し、なぜ私の作品を盗んだのかと公衆の面前で問いただした。
理奈は合図でもあったかのように、すっと涙を落とした。怯えたふりで身をすくめ、こう尋ねる。
「私があなたの努力を盗んだって言うの……? でも映美、その行列をあなたはいったいどこで組んだの? 証拠はあるの、それともみんなの前で私を貶めたいだけ?」
涙に濡れた被害者の演技のせいで、私は正気を失ったヒステリックな狂人にしか見えなくなった。
その瞬間、貴族の観客席は怒りで爆発しただけではない。これまで私を支持してくれていた生徒の一部まで寝返り、嫉妬で狂った負け犬の負け惜しみだと思い込んだ。
理奈はさらに、学園内の放送カメラに向かって殊勝に宣言した。もし、私がこの行列を以前に構築していた証拠が一欠片でも見つかるなら、自分は即座に棄権する。そればかりか、闇魔術を用いた者に科される究極の罰を喜んで受ける、と。
なんて見事で、隙のない台本。
彼女がそう言ったのは、私の構想が脳内にしか存在しないと分かり切っていたからだ。設計図も下書きも、物として残るものは何ひとつない――つまり、証明など絶対に出てこない!
私は死ぬまで理解できなかった。どうやって人は、絶対的な精神防壁をすり抜け、他人の頭の奥に隠れた思考を乗っ取れるのか――!
私の強烈な視線に気圧されたのか、理奈は後ろめたそうに目を逸らした。
彼女はマイクへ口を寄せ、天使のように柔らかな声で言う。「映美、課題はもう発表されたよ。正直、一位をあなたに譲ることになっても構わない。ただ、あなたが本当の力を出し切るところが見たいの」
その言葉は、観客を思いのままに操った。
理奈に肩入れする貴族の生徒たちから、どっと拍手が湧き起こる。「見たか? これが品格ってやつだ! 今日、理奈が一位じゃなくてもいいだろう? あの優雅さ……名家の令嬢の鑑だ!」
庶民側の派閥まで揺らぎ始める。「うん……映美って、いつもみんなに冷たいし。比べたら、理奈のほうがずっと優しくていい子だよね」
一言一句、同じだった。
前世とまったく同じ台詞を耳にした途端、胃の底がぐらりと捻じれ、吐き気がこみ上げる。理奈が白昼堂々、平和主義者の仮面を被って見せるのは、善意からじゃない。
今日、勝つと確信しているからだ。
私はその場に張り付いたまま、わざと返事をしなかった。彼女に相手をしてやる気など、欠片もない。
司会者は私の血の気の失せた顔をさっと見回し、介入するようにマイクを上げる。
「それでは出場者の皆さん、防音構築室へ移動し、精神構築を開始してください! なお、精神準備に与えられる時間は五分。準備が整い次第、再び出てきて投影を行ってもらいます!」
大講堂は短い暗転と転換の時間へ沈んだ。
その隙を逃さず、理奈は滑るように距離を詰め、私を支えるみたいに両手で私の腕を包み込んだ。
乱暴に振りほどこうとした、その瞬間――まるで私の動きを読み切っていたかのように、彼女の指が先回りして締まる。
「映美、私……緊張してるの」
囚人を固定する枷のごとく、彼女の掌が私の腕を万力のように締めつける。それと同時に、彼女は顔をぐっと寄せ、鼻先が触れそうな距離まで詰めてきた。
彼女の瞳孔がわずかに震え、次の瞬間、急激に開く。薄気味悪い、捕食者じみた圧が私へとのしかかる。
彼女は私を、逃げ場のない視線の檻に閉じ込めた。
