第2章
若菜視点
離婚を決意して弁護士に連絡を取った時、録音だけでは不十分だと悟った。私は冷静を装い、彼の浮気の決定的な証拠を集めることにした。それからの二週間で、私は自分でも知らない自分に変わってしまった。真夜中に夫の電話料金明細をチェックし、彼がシャワーを浴びている隙にクレジットカードの明細書を写真に撮るような人間に。
その一瞬一瞬が嫌でたまらなかった。それでも、私は実行した。
まず手始めは携帯電話の通話履歴だった。佐藤翔太が眠りにつくのを待って、階下へ忍び足で下り、パソコンから私たちのアカウントにログインした。番号の一覧をスクロールする指が震えた。あった――見慣れない同じ番号が、何度も何度も。深夜にかけられた電話は、二十分、三十分、時には一時間に及ぶものもあった。いわゆる会社の残業とやらの時間帯にかけられた電話。
私はそのすべてをスクリーンショットに収めた。
二日後、私は彼の後をつけた。
「今夜も残業になった」朝食の席で、佐藤翔太は携帯電話から顔も上げずに言った。
「わかったわ」と私は答えた。
「じゃあ。また夜に」
牛乳を飲んでいた勇人が声を上げた。「お父さん、お仕事がんばって!」
私は勇人を学校に送り届けた。それから佐藤翔太のオフィスビルまで車を走らせ、出口が見える場所に駐車した。
彼が出てきたのは六時半。だが、自分の車には向かわなかった。十五分ぐらい歩くと、流行りのお洒落なイタリアンレストランに入っていった。
彼女はもう来ていた。窓際のテーブルで待っていた。
鈴木美穂。
佐藤翔太の連絡先から彼女の番号を見つけ、調べてあったから名前は知っていた。鈴木美穂、二十九歳、プロのバイオリニスト。彼女のインスタグラムはコンサートの写真や、楽器と一緒に写った芸術家気取りの写真で埋め尽くされていた。まるで雑誌から抜け出してきたような人。長いブロンドの髪、完璧なメイク、普段着ですらエレガントだった。
そして今、その彼女が、私の夫に微笑みかけている。
私は通りの向かい側の車の中から、携帯電話のズームレンズで写真を撮った。テーブル越しに手を伸ばし、彼女の手を握る佐藤翔太。彼の言った何かに笑う美穂。二人が身を寄せ合う親密な様子に、胃がむかむかした。
いつからこんなことが続いていたの? 私は何度、彼の嘘を信じてきたんだろう?
最悪の出来事は、数日後に起こった。
勇人が学校に持っていくリュックの準備を手伝っていた時、それを見つけてしまった。サイドポケットに押し込まれた、グミの小さな袋。スーパーで売っているような安物じゃない。街の高級なブランドショップのものだ。
包み紙には、丸みを帯びた女性的な筆跡でメモが書かれていた。「大好きな勇人くんへ! ♡」
私の手から、完全に感覚が消えた。
私がそれを見ているのに気づくと、勇人は袋をひったくった。「これは僕のだよ!」
「どこで手に入れたの?」私は努めて優しい声で尋ねた。
「友達がくれたんだ」彼は袋を胸に抱きしめた。
「どんなお友達?」
「ただの友達だよ。お母さんは知らない人」
女の人……。
「勇人――」
「もう質問しないで!」彼はリュックを掴むと階下へ走って行き、私は彼の部屋に立ち尽くしていた。
あの録音の通りだ。夫は本当に、あの女を私たちの息子の人生に引き入れていた。このグミの袋は、その何より胸糞悪い証拠だ。佐藤翔太は、六歳になる私たちの息子を、自分の愛人に会わせていたのだ。そして勇人は、グミの出どころの秘密を守るほど、彼女のことを気に入ってしまっている。
その夜、私はバスルームに鍵をかけて、涙が枯れるまで泣いた。そして顔を洗い、化粧を直し、何事もなかったかのように夕食を作るために階下へ下りた。
数日間考えた末、今度の土曜日に翔太にすべてをはっきりさせようと決めた。
土曜の夜、佐藤翔太は七時過ぎに帰ってきた。玄関で彼の声がして、勇人が「お父さん! おかえり!」と興奮した声で駆け寄っていくのが聞こえた。
私は勇人がテレビの前に落ち着くのを待った。それからリビングに入り、佐藤翔太の前のテーブルに離婚届を置いた。
彼は携帯電話をいじっていたが、その書類を見るとぴたりと動きを止めた。
「これは何だ?」
「見ての通りよ。離婚したいの」と私は言った。
佐藤翔太は書類を拾い上げ、どんどん速くページをめくった。彼が私を見上げた時、その表情は冷え切っていた。「本気なんだな」
「ええ」
「なぜだ?」彼は笑った。「当ててやろうか。美穂のことに気づいたんだろ」
私は答えなかった。ただ携帯電話を取り出し、レストランで彼と美穂が手を繋ぎ、恋人同士のように見つめ合っている写真を見せた。
彼の顎に力がこもった。「尾行したのか」
「あなたが浮気していたからよ」
「だから何だ?」彼は書類をテーブルに投げ返した。「何を期待してたんだ、若菜? お前が俺をこの結婚に追い込んだんだ。わざと妊娠して、俺に――」
「追い込んだりしてない!」言葉が私からほとばしり出た。「避妊を拒んだのはあなたの方じゃない! 私は避妊ピルを飲んでたけど、完璧じゃないから妊娠してしまって、どうしたらいいか分からなくて――」
「堕ろすこともできただろ」佐藤翔太は冷たく言い放った。「だが、しなかった。子供を産むことに決めた。そうすれば俺が結婚せざるを得ないと感じるとわかっていたからだ。そしてその通りになった。俺がプロポーズしたのは、それが正しいことだと思ったからだ。そして六年間、その決断と共に生きてきた」
本当にそう思っているの? 私が彼を操ったと?
「プロポーズしたのはあなたよ」私はゆっくりと言った。「あなたが私と結婚したいんだと。私を愛しているんだと思っていた」
「責任を感じただけだ。それとは違う」彼は立ち上がり、今や私を見下ろしていた。「だが、いいだろう。離婚したいなら、してやる。だが、勇人を連れていけるなんて一瞬でも思うなよ」
「あの子は私の息子よ!」
「俺の息子だ」佐藤翔太は私の言葉を遮った。「そして、俺と一緒にいたいと思っている」
誰かに胸を殴られ、肺からすべての空気を叩き出されたような衝撃だった。「翔太――」
「俺はいい父親だった。この家族を養ってきたし、勇人も俺を愛している」彼の笑みは残酷だった。「勇人が最近、お前に何か言ったか、若菜? お前と一緒に暮らしたいと? お前がいい母親だと思っていると? 言うわけないな。あいつも真実を知っているからだ。お前はあいつを利用して俺をこの結婚に追い込んだ。そして今、あいつもお前の正体を見抜ける年になった。自分の子供にさえ一緒に住みたくないと言われているのに、裁判所がお前に親権を与えると思うか?」
そんなの嘘。嘘よ。勇人は混乱しているだけ。佐藤翔太が私の悪口を吹き込んでいるんだわ。
「裁判所で会おう」佐藤翔太はそう言うと、携帯電話を手に取り、部屋から出て行った。
私はソファに崩れ落ちた。全身が震えていた。
六年間の結婚生活、この関係を何とかしようと、良い妻、良い母親でいようと努力してきた六年間。その結末がこれだった。夫に、『お前が俺を罠にはめた』と、『俺の人生を台無しにした』と、そして私たちの息子さえも『お前を望んでいない』と告げられて終わるなんて。
