第2章

エリフィは表向き、私が追い求めている相手。彼を選ぶのが当然だ。しかし、なぜか私の視線は何度もレトンに引き寄せられてしまう。あれほど私を嫌っている彼にキスをすれば、きっと苦痛に満ちた顔をするのだろうか?

「ウィスト、そろそろ時間だ」

ゲームを進行していた貴族の青年が声をかける。

私は立ち上がり、優雅な足取りでまっすぐレトンの前まで歩み寄ると、手を伸ばして彼の首筋を掴み、引き寄せた。

本来なら、軽くキスをしてすぐに離れ、彼の怒りと屈辱に満ちた顔を鑑賞するつもりだった。

しかし、私の唇が彼のそれに触れようとした瞬間、レトンは突如として主導権を奪った。彼の腕が私の腰に回り、さらに強く引き寄せられる。

そのキスはまるで決闘場での闘いのように激しく、支配と征服の意味合いに満ちていた。

私は逃れようともがいたが、彼の力に完全に抑え込まれてしまう。

まさか、目下の者が目上の者に、同じやり方で私を辱めようとするなんて!

私は怒りと羞恥に駆られて彼を突き飛ばし、乗馬鞭を掴んでその頬に思い切り叩きつけた。

鞭は彼の顔に赤い痕を残し、顔は横を向いたが、その瞳にはさらに底知れぬ光が宿っていた。

「誰が許した、私に触れていいと?」

私は歯を食いしばって言った。

私はエリフィに怒りの一瞥を投げつけ、ハイヒールのダンスシューズでレトンのブーツを踏みつけてからボックス席を後にした。

エリフィが慌てて追いかけてくる。

「エリノ、大丈夫かい?」

彼は気遣わしげに、湖を渡るそよ風のように優しい声で尋ねた。

私は悲しげな表情を作り、目に涙を浮かべた。

「エリフィ、私を避けるなんて、まさか私があなたを愛していることを信じていないの?」

エリフィは一歩近づき、声を潜めた。

「離れざるを得なかったんだ、エリノ。王家の安全に関わる極秘任務を受けていた。だから誰にも、君にさえも話せなかった」

ゲームではエリフィが当時エリノから離れた理由は詳しく語られていない。ただ、貴族の子弟たちとの賭けでエリノをからかっていたとしか言及されていなかった。

今、彼は明らかに真実を隠すために言い訳をでっち上げている。

「だとしても、戻ってきてから一度も私に会いに来てくれなかった」

私は顔を上げ、非難の光を宿した瞳で彼を見つめた。

「ただまだ連絡する暇がなかっただけなんだ」

彼は私の手を握り、優しく呼びかけた。

「エリノ、一つ頼みがある」

私は彼に先を促した。

「父の貴族商路を引き継いだんだが、レトンの貿易商会が最大の競争相手でね」

彼は私に顔を寄せ、低い声で言った。

「彼の交易ルート図と契約書が必要なんだ」

「なぜそれを私に?」

「彼は君の契約僕だからさ」

エリフィは軽く笑った。

「それに、この事業が失敗すれば、王室は私を東方の街へ駐在させることになる。そうなれば、私たちは離れ離れに……」

私はそのゲームの筋書きを瞬時に思い出した。

ゲームではエリフィが交易ルート図を手に入れるとしか言われておらず、その入手方法は語られていなかった。

なるほど、提供したのは私だったのか……。

「手伝ってあげるわ」

私は小声で承諾したが、心の中では任務のことを計算していた。

「だって、愛しているもの、そうでしょ?」

「ああ、私も愛している。顔色が悪いようだ、早く戻って休むといい。今日の宴会でのことは、私が皆に説明しておくから」

エリフィを見送った後、私の顔から悲しみの表情はすぐに消え去った。

偽善者め、と心の中で罵る。

振り返ってその場を去ろうとした時、物陰に立っていたレトンと不意に視線が合った。

彼の瞳は、まるで東方の山脈に広がる氷河のような冷たさを帯びていた。その底知れぬ冷気に、私は思わず身震いする。

彼は突然私の手首を掴んだ。

「ウィスト」

その声は低く抑えられていたが、今まで聞いたことのない詰問の色を帯びていた。

「あなたはかつて、契約の名の下に私が他の貴族令嬢に目を向けることを禁じました。では、あなたは? エリフィ様へのあの想いは、どう説明なさるのですか?」

私は彼の手を振り払い、顎を上げて嘲るような笑みを浮かべた。

「レトン、猟犬が主人に自分一匹だけを飼えと要求するのを見たことがあるかしら? 自分の立場を弁えるべきよ」

私は手を伸ばし、彼の頬をそっと撫でた。そこにはまだ乗馬鞭の赤い痕が残っている。

「あなたの顔がエリフィ様と三割方似ていなければ、あなたのような卑しい平民に興味なんてこれっぽっちも湧かないわ!」

その言葉を言い放つと、彼の目尻が微かに赤らむのが見えた。屈辱を受けて怒りを無理に抑え込んでいる証拠だろうと、私は満足した。

――

数日後、レトンが商会の会議に出席している隙を狙い、私は彼の住居に忍び込んだ。貴重な交易ルート図を探すため、彼の書類棚を漁る。

三つ目の引き出しを開けた、ちょうどその時。背後から冷静な声が聞こえた。

「ウィスト、何をなさっているのですか?」

私は勢いよく振り返った。レトンが入口に立ち、無表情で私を見つめている。

彼は会議を早く切り上げてきたのだ。

言いようのない後ろめたさが込み上げてきたが、すぐに怒りに取って代わられた。なぜ私が、一介の契約僕に後ろめたさを感じなければならないのか?

「跪きなさい」

私は冷たく硬い声で命じた。

レトンは私の冷徹な視線を受け、ゆっくりと膝を折った。

私は彼に近づき、足を上げてその太腿の上にそっと乗せる。

「レトン、あなたに私を問いただす資格はないわ」

私は身を屈め、彼の下顎を掴んだ。

「契約の縛りを忘れたのかしら?」

レトンは目尻を赤らめ、全身を硬直させ、極度の忍耐を見せている。指先が微かに震えていた。

その様子に私は一抹の満足感を覚えたが、まだ足りないと感じた。

悪役令嬢は、もっと無慈悲でなければ。

任務を完遂するためには、もっと悪辣にならなければならない。

「脱ぎなさい」

私は指で彼のベストの襟をくいと引っ張り、そう命じた。

レトンが私の傲慢さに嫌悪感を抱き、席を蹴って立ち去ることを期待していた。そうすれば、あの重要な交易ルート図を探す時間が十分に稼げる。

しかし、私の予想に反し、レトンは顔を上げた。その深い瞳は私を真っ直ぐに見つめ、微塵も怯む様子はなかった。

彼はゆっくりと手を上げ、濃紺のベストのボタンを外し始め、続いて白いシャツの襟元に手をかけた。

彼が一つ、また一つとボタンを外していくのを、私は衝撃を受けて見つめていた。やがて、傷だらけの引き締まった体が露わになる。

その傷跡は、明らかに決闘場でつけられた刀傷と鞭の痕だった。

レトンは私を見上げ、低い声で言った。

「ウィスト、まだ続けますか?」

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