第3章

私は平静を装ったが、頬が熱くなっているのが自分でもわかった。

「私が止めろと言ったかしら?」

彼の指が腰へと移動し、銀のバックルがついた革ベルトを外し始める。

わけのわからない混乱に襲われ、心臓が胸から飛び出しそうなほど速く鼓動した。

違う、彼の反応はこうであるべきではない。

逆上した私は足を上げ、彼の肩を蹴りつけた。

「出ていけ!」

レトンの眼差しが危険なものに変わる。彼は私の足首を掴んだ。その力はあまりに強く、振りほどくことができない。続いて、彼は私をぐいと自分の方へ引き寄せた。

バランスを崩した私は、無意識に彼の首に抱きついていた。インクと古書の匂いに混じって、どことなく薬の香りがする。

次の瞬間、私は絨毯の上に押し倒されていた。私たちの身体はぴったりと密着し、彼の呼吸が私の頬を掠める。

「ウィスト」

レトンの眼差しは鋭く、声は低く掠れていた。

「ゲームはまだ続けたいですか?」

また私を挑発している!

「放して!」

私は彼の頬を平手打ちした。声が緊張で少し甲高くなる。

「自分の身分を忘れたの?」

彼を突き飛ばそうとするが、びくともしない。絶望のあまり、私は最後の切り札を切った。

「あなたの妹の薬が誰から提供されているか忘れないで! 今すぐ出ていかなければ、妹さんは薬なしになるわ!」

その言葉は呪文のように効いた。

レトンの眼差しが瞬時に理性を回復する。彼は私を放したが、その目には今まで見たことのない冷たい光がよぎった。

「出ていって」

私は乱れたスカートの裾を整えながら、微かに震える声で言った。

「今すぐ出ていきなさい」

レトンは黙って立ち上がり、シャツのボタンを留め直し、落ちていたベストを拾うと、一言も発さずに書斎を去っていった。

ドアが閉まる音に安堵のため息をついたが、同時にわけのわからない喪失感も覚えた。

この馬鹿げた考えを振り払い、私はすぐに交易ルートの地図を探し始めた。

書斎の隅々まで念入りに調べた末、壁に掛かった絵画の裏に隠された魔法陣に気づいた。

様々な方法で魔法陣を解こうと試みたが、どうしてもうまくいかない。私の誕生石が偶然魔法陣の上に落ちるまで、それは解けなかった。

なぜ彼は私の誕生石で陣を設定したのだろう?

面倒を避けるためだろう、と私は推測した。まさか私と結びつけて考える者など、そうそういないだろうから。

金庫の奥深くで、私は案の定、交易ルートの地図と重要な契約書を見つけ出した。

もう交易ルートの地図は見つけた。あとは最後の一歩、これをエリフィに渡し、レトンからすべてを奪うだけだ。

夜の帳が下りる頃、私は交易ルートの地図をエリフィ・ボントーに渡した。

彼は得意げにその貴重な書類を受け取り、その目には勝利の光が輝いていた。

屋敷に戻った後、私は厨房に立っていた。不器用な手つきで様々な調味料や食材を並べている。

私は何をしているのだろう? その問いが頭の中で何度も響く。

明日には私はこの世界から、レトンから永遠に去るというのに、今この瞬間に彼のために晩餐を用意しているなんて。

熱い油がはねた自分の指を見つめ、そっと息を吹きかけた。

私のいた世界でも、私は心臓病を患っていた。けれど私の家族は、レトンが妹のためにするように、私のために必死になってはくれなかった。彼らは私を家族の累贅、隠すべき秘密としか見ていなかった。

だから私はゲームに夢中になった。寂しさを紛らわすために。まさかそのせいでこの世界に来ることになるなんて、思いもしなかった。

「本当はレトンって、すごくいいお兄さんなのよね。妹を救うために、地下の決闘場で命を懸けて戦って、私の屈辱に耐えて、契約の束縛も受け入れて……」

私は小声で呟き、持っていたナイフでうっかり指先を切ってしまった。

真っ赤な血の玉が滲み出る。私はそれをぼんやりと見つめ、内心の不安がますます募っていった。

私は少し、罪悪感を抱いているのだろう。任務の束縛から解放されて、ようやく罪悪感を抱くことが許されたのだ。だからこそ、最後の夜に彼に償いをしたいと思ったのかもしれない。

玄関ホールから足音が聞こえる。レトンが帰ってきたのだとわかった。

彼はしっかりとした足取りで食堂に入ってくると、テーブルの上の豪勢な料理を目にし、その深い瞳に一瞬、戸惑いの色が浮かんだ。

「毒入りよ。味見してみたらどう!」

私は挑発するように言い、わざと高慢に顎を上げた。

レトンは私の挑発には乗らず、むしろ私の手の火傷の痕に気づいた。

彼は黙って携帯していた軟膏を取り出し、そっと私の手首を握ると、傷の手当てをしてくれた。

彼の手のひらは温かく、ごつごつしていて、心地よかった。

「あなたの偽善的な気遣いなんて必要ないわ!」

私は手を引こうとしたが、大して力は入らなかった。

「火傷はすぐに手当てしないと痕が残ります、ウィスト」

彼の声は低く、穏やかだった。

私の心は揺さぶられた。

私にここまで苦しめられているというのに、彼はまだこんなにも優しい。

一瞬、私は真実を打ち明けそうになった。明日の彼を待ち受ける出来事を告げてしまおうかと。しかし、私は唇を噛み締めた。

晩餐の間、私はレトンの一挙一動をじっと見つめていた。

料理の味は芳しくなく、自分でもわかるほどだったが、彼は皿の中のものをほとんどすべて平らげた。

「どう?」

私は尋ねた。声には無意識のうちに期待が混じっていた。

「大変美味です」

レトンはためらいなく答えた。

私は冷笑した。「嘘つき」彼が何か言う前に、私は話題を変えた。

「罰として、暖炉の前で読書に付き合いなさい」

書斎では、暖炉の炎がレトンの横顔を照らし、その強靭な輪郭を浮かび上がらせていた。私は手の中の書物に集中しているふりをしていたが、いつの間にか瞼が重くなり、本が手から滑り落ちた。意識が次第に曖昧になり、何か温かいものに寄りかかっていた。

はっと目を覚ますと、自分がレトンの肩に寄りかかっていることに気づいた。

彼は私を突き放すことなく、むしろ私の金髪を優しく撫でながら、穏やかに尋ねてきた。

「お嬢様、本日は……随分と穏やかでいらっしゃいますが、何かございましたか?」

その言葉は、まるで冷水を浴びせられたかのようだった。

彼は何かを察したのだろうか?

私は後ろめたさから勢いよく立ち上がり、絨毯につまずきそうになった。

「馬鹿なこと考えないで!」

私は慌ててレトンを突き放し、スカートの裾を持ち上げて戸口へ向かった。

「ただ……明日は重要な用事があるから、あなたと口論して気力を無駄にしたくないだけよ」

寝室に戻った後、私はドアに寄りかかり、胸に鋭い痛みを感じた。

これはただのゲームの世界だ。

ただのゲーム。

それなのになぜ、私の心はこれほどまでに名残惜しいのだろう? なぜ、この世界から、レトンから永遠に去ることを思うと、これほどまでに苦しくなるのだろう?

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