第100章 彼は本当に彼女を愛している

八幡誠言は一瞬だけ言葉を失い、すぐに否定した。

「……ない」

「じゃあ、どうして離婚しないの?」

八幡誠言は口を開きかけた。けれど喉の奥が何かに塞がれたみたいで、声にならない。

理由が――見つからなかった。

愛していないのなら、なぜ離婚を引き延ばしてきた?

なぜ法廷で、あれほどまでに判決を潰そうとした?

なぜ彼女が溺れた瞬間、考えるより先に飛び込んだ?

答えが出ない。胸の内は絡まった糸みたいにぐしゃぐしゃで、ほどけない。断ち切れない。

そのとき、スマホが鳴った。

岩崎深からだ。

「八幡社長、若林詩羽さんのお母さまが、奥様の病室へ――」

最後まで聞く前に、八幡誠言は踵を...

ログインして続きを読む