第136章 僕じゃない

鳴海絃星が池の縁へ駆けつけた瞬間、胸の奥がずしりと沈んだ。

ばしゃばしゃと水しぶきが上がり、小さな影が二つ、水の中でもがいている。

川野梓と、八幡一辰――。

鳴海絃星は迷わなかった。靴のまま池へ飛び込み、沈みかけていた川野梓の身体を一気に抱え上げる。

冷たい水が肌を刺す。息が詰まるほどの冷たさだったが、そんなことに構っていられない。彼女は梓を胸に抱いたまま、必死に岸へ向かって泳いだ。

八幡一辰は、水面を横切っていくその背中を見ていた。自分の前を通り過ぎていく影。自分へではなく、川野梓へ伸びた手。

その瞬間、言葉にできない何かが、胸の奥からじわりと湧き上がった。

胸をえぐられたみ...

ログインして続きを読む