第187章 逃走

甘く絡みつくような声音が落ちた瞬間、部屋の柔らかな灯りが神野綺生の端正な横顔を照らし出す。だが、さっきまで心配と温もりを湛えていた瞳から、熱がすっと引いた。薄い氷膜みたいな冷えが眼底を覆い、穏やかな仮面に、はっきりと亀裂が走る。

彼は視線を落とした。目の前にいるのは、恐怖でいっぱいの目をして、ただ逃げたい一心の少女。

薄い唇が開く。声は静かで、しかし拒む余地のない硬さを帯びていた。

「だめだ」

「絃星。家に帰すこと以外なら、欲しいものも、したいことも、全部叶えてやる」

鳴海絃星は呆然と彼を見つめた。瞳の奥に残っていた最後の希望が、そこで完全に消える。

彼女は目を閉じる。長い睫毛が...

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