第204章 なぜあなたなのか

日が傾き、空が茜色から群青へと染まっていく。柳瀬は昭子に向けてくいっと顎をしゃくり、合図を送った。

「今日のノルマは終わりだ。さっさとホテルを取ってくれ。俺を休ませろ、もうへとへとだ」

昭子は腕を組んで偉そうにする柳瀬を呆れたように見つめ、首を傾げた。

「ご自分で手配されないんですか?」

その言葉が着火剤になったのか、柳瀬はギリッと歯噛みして憤慨した。

「はあ? お前、俺がパリで金を失くしたのを忘れたのかよ」

「私だってお財布、取られましたけど」

昭子は両手を広げ、やれやれという仕草を見せる。

あの時、私の被害額の方が多いと嘲笑った柳瀬の憎たらしい顔は、今でも鮮明に覚えている。

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