第349章 恋に惑う

なくすのが怖いなどと口では殊勝なことを言っているが、その実、男の腹の内ではとっくに算段がついているのだ。たとえ将来、桜井昭子が癇癪を起こして離婚を切り出したとしても、肝心の婚姻届が見つからなければどうしようもないだろうと。

婚姻届がなければ、どうやって離婚するというのか。

桜井昭子は、男がボディーガードに保管を命じ、さらに隠し場所を悟られないよう何やら耳打ちする姿をじっと見つめていた。

おかしくて、つい笑いがこみ上げてくる。この男は私を娶るために、篠崎氏の資産も個人の財産もすべて投げ出したというのに、たかが婚姻届一枚をそこまで警戒して防衛線を張るなんて。

「司、離婚なんてしないわよ。安...

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