第4章 私の女

「篠崎社長、白川さん、彼女は桜井昭子。俺の女です」

小林淮人のあまりに直接的な紹介に、桜井昭子の表情がこわばる。とっさに反論しようとしたが、篠崎司の冷たく人を寄せつけない視線とかち合い、言葉が喉に詰まった。

「桜井さん、はじめまして」白川あかりはすべてを察したように微笑み、友好的に手を差し伸べた。

桜井昭子の居心地の悪さに比べ、この華やかな宴はまるで白川あかりの独壇場のようだ。やはり、どれだけ取り繕っても、違うものは違う。

一方、篠崎司は、冒頭で何気なく一瞥をくれたきり、二度と彼女に視線を落とすことはなかった。まるで取るに足らない他人であるかのように。

小林淮人はすぐさま桜井昭子の顔を上げさせ、篠崎司との距離を縮めようと試みる。

「篠崎社長、ご覧ください。彼女、白川さんと少し似ているでしょう。まあ、白川さんほど綺麗ではありませんが。やはり帰国子女のご令嬢は、我々には高嶺の花ですな」

白川あかりが篠崎司の高嶺の花だと聞きつけてからというもの、小林淮人はあらゆる手を使って篠崎司に近づこうと画策していた。

東都の経済の生命線は、すべて篠崎司が握っている。彼の指の隙間から漏れ落ちるプロジェクトをいくつか受注できれば、小林家は濡れ手で粟の大儲けができるのだ。

白川あかりは口元を覆ってくすくすと笑い、肘で軽く篠崎司をつついた。「ほんと、少し似てるかも。司、どう思う?」

その言葉に、篠崎司はようやく気だるげに目を上げ、桜井昭子を一瞥した。漆黒の瞳からは何の感情も読み取れない。

「お前には及ばない」

「もう、何言ってるの」白川あかりはわざと拗ねたように彼の肩を叩いた。二人の振る舞いは親密そのものだ。

かつてベッドの上で、篠崎司も彼女の耳を撫でながら愛を囁いてくれた。だが、その記憶も今となってはひどく目に刺さる。

彼女は掌を固く握りしめ、身の置き所のない思いに駆られた。

それなのに、小林淮人はなおも頷きながら追従し、桜井昭子の顎を軽蔑的に掴む。「篠崎社長のおっしゃる通りです。白川さんの魅力は、こんな雑魚が比べられるものではありません。白川さんと少し似ているだけでも、こいつにとっては幸運ですよ」

一言一句が桜井昭子を貶め、白川あかりを持ち上げるものだった。

彼女は瞼を伏せた。そうすればあの耳障りな言葉が聞こえなくなるかのように。しかし、心臓は何度も抉られるように、ずきずきと痛んだ。

最初から最後まで、篠崎司は評価も反論もせず、ただグラスの中の赤い液体を揺らし、一口で飲み干した。

結局、最初に耐えられなくなったのは白川あかりだった。

「もういいわ。あなたたちはあっちで座ってて。私と桜井さんはちょっとお化粧直しに行くから」

白川あかりは二人を追い払うと、親しげに桜井昭子の腕を組んで化粧室へと向かった。

途中まで歩いたところで、桜井昭子はゆっくりと腕を抜き、頭を下げて礼を言った。「白川さん、助けてくださってありがとうございます」

「気にしないで。司の言ったことも気にしちゃだめよ。彼は私が怒るのを心配して、口が正直になっちゃうの。男って、みんなそうだから」白川あかりは人畜無害な笑みを浮かべた。

しかし桜井昭子には、それが一種の所有権の誇示のように聞こえた。もっとも、今の彼女にはそれを詮索する資格など微塵もない。

彼女は口角を引きつらせ、頷いて応じた。

「じゃあ、あなたも先に戻ってて」

「はい」

会場の中心部へ行くと、皆がソファに腰掛けていた。小林淮人は彼女を見つけると、すぐに手招きした。

桜井昭子はぎこちなく彼の隣に座る。篠崎司の前を通り過ぎたが、彼は顔も上げず、彼女の動向には全く無関心だった。

彼女が腰を下ろすや否や、高価なスーツを纏った男がからかうように口を開いた。「小林家の御曹司、美人を連れてきたなら、俺たちにも紹介してくれよ」

桜井昭子はその男を知らず、少し警戒して身を縮こまらせた。こういう場には、どうにも馴染めない。

小林淮人が口を開く前に、男の隣に座っていた連れの女が鼻で笑い、嘲るように言った。「こちらのお客様、ずいぶん特徴的なお顔立ちですこと。帰国されたばかりの白川さんによく似てらっしゃるわ。残念ながら、あの方のような運命には恵まれなかったみたいだけど」

その言葉が終わるやいなや、その場にいた者たちの視線が桜井昭子の顔に集まり、誰もが値踏みするように彼女を見つめた。

「兄さん、佳乃さんは?まだ来てないの?」

男の篠崎司への呼び方で、この男が篠崎司とただならぬ関係にあることを彼女は悟った。思わず男をまじまじと見つめてしまう。二人の目元は確かに似ているが、篠崎司の冷徹さに比べ、篠崎修斉はずっと穏やかに見えた。

「遅いから先に帰らせた」篠崎司は気のない様子で答えた。会場の中心に座り、すべてを掌握しているかのような余裕を漂わせている。

本当に大切にしているんだわ。桜井昭子は目を伏せ、その表情に酸っぱいものが滲んだ。

最初に口を開いた女は、桜井昭子の注意が全く自分に向いていないことに気づくと、途端に顔を曇らせ、冷たく言い放った。「こちらのお客様は初めていらしたのでしょう?せっかくだから一杯飲んで、皆さんのために場を盛り上げてもらわないと。ねえ、小林家の御曹司、あなたが連れてきた子は少し道理をわきまえていないんじゃない?今日ここに来られたのは、うちの修斉のおかげでもあるのに、少しも誠意が見られないわ」

桜井昭子には、彼女の敵意がどこから来るのか理解できなかった。もともと断ろうと思っていたが、これで完全に逃げ道を塞がれてしまった。

彼女はもともと一滴も酒を飲まない。あの苦い味がどうしても嫌いなのだ。

「早く飲め」小林淮人が彼女の耳元で小さく警告した。

この酒は、飲まなければ済まないようだ。

彼女は目の前のグラスを取り、一気に飲み干した。苦味が口いっぱいに広がり、その刺激に眉をきつく顰める。目元がじわりと潤んだ。

小林淮人はその様子を見て、すぐに氷水を一杯差し出し、彼女が少しでも楽になるようにした。

「どうかご容赦を。彼女はあまり酒を飲んだことがないんです」小林淮人は桜井昭子の背中をさすった。

ずっとこちらに注意を払っていなかった篠崎司の視線が、しかしその手に注がれた。桜井昭子の錯覚でなければ、鋭い視線がこちらに向けられた気がした。

その視線の源を辿ると、篠崎司は淡々とスマホに目を落としており、先ほどのはただの気のせいだったかのようだった。

きっと篠崎司は、早く帰って白川あかりに会いたいと心から願っているのだろう。自分の生死など、気にかけるはずもない。

女は軽蔑するようにフンと鼻を鳴らした。「あんたについて来たんだから、今さら純情ぶらないでちょうだい」

この言葉は小林淮人の気に障った。彼は眉を上げ、含みを持たせて言う。「まあ、経験豊富な方々とは違って、彼女は本当に慣れていないんですよ」

その言葉に、女は痛いところを突かれたように、一瞬で逆上した。「小林家の御曹司、どういう意味よ?」

彼女はかつてクラブのナンバーワンだったが、篠崎修斉の愛人になって今の地位を手に入れた。当然、昔のことを蒸し返されたくはない。

小林淮人は慌てず騒がず、目を細めて笑った。「心当たりのある方がいれば、その方のことですよ」

「まあまあ、せっかくみんなで集まったんだ。まだ楽しみ足りないのに、どうして喧嘩を始めるんだ」篠崎修斉が場を収めるために割って入った。

篠崎修斉が口を出したからには、響子は不満ながらもそれを呑み込むしかなかった。彼女の視線が桜井昭子の赤く染まった顔に落ちる。すると、彼女の頭に妙案が浮かんだ。

「わかったわ。うちの修斉がそう言うなら、あなたとのことは水に流してあげる。いっそのこと、みんなでゲームでもして楽しく過ごしましょうよ。さっきまでの嫌なこと、忘れちゃわない?」

前のチャプター
次のチャプター